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逆転裁判SS
ミルキー
怖い夢を見た。
布団を頭までスッポリかぶせても、後ろから何かが忍び寄るような気がして怖くて眠れない。
振り払うようにガバッと起きて立ち上がる。
「だめだめ、パパのとこいこ!」
ペタペタと少し寒い廊下を歩いて隣の部屋へ行くと、ドアの隙間からいつもは消えている電気が漏れていて、あ、と思い出す。
(そうだ。今日はまよいちゃんがお泊まりに来てるんだ)
なんとなく、邪魔しちゃいけないような気がする。幼い自分にはなぜかわからないけど…。
(自分の部屋に戻る?)
薄暗い廊下を振り返るだけで、少し肩がすくむ。
(どうしよう…)
ドアの前にぽつんと立ち尽くした。

ミルキー


1ヶ月ぶりに会う真宵ちゃんは修行用の装束から着物へ変わり、なんだか少し大人っぽくなった気がした。
今はその着物も脱いでぼくのシャツとスウェットを着てベットに横になっているが、やはりしぐさや表情が少女から大人の女性のそれへと変わってきている。
「ね、ね。みぬきちゃん、可愛いねぇ」
「真宵ちゃん、そればっかりだね」
「だってすっごく可愛いじゃない!それに良い子だししっかりしてるし可愛いし、おまけにマジックが出来るなんてねぇ、はみちゃんにも会わせてあげたいな」
「ああ、同い年だもんね」
真宵ちゃんはさっきみぬきに見せてもらったマジックの感動まだ覚めやらぬ、といった感じで目をキラキラさせてうっとりしている。
大人っぽくなってもこうゆう所は全然変わってないな。
真宵ちゃんの寝そべるベットへ腰をかけて、隣に横たわる。
「真宵ちゃんはどうなの?最近」
黒い艶々した髪を撫でながら聞く。すくい上げると手からサラサラと落ちていく。
「あたし?あたしはもーバリバリやってるよ!はみちゃんも応援してくれるしね」
「へぇ、頼もしいな」
「でしょ?あたしも家元だし、もっと頑張んなきゃね!」
「あんまり無理しちゃ駄目だぞ?真宵ちゃん、自分の事には本当疎いんだから…」
「ふふ、大丈夫。それに疎いのはなるほどくんも一緒だよ?」
「え。そ、そうかな?」
「そうだよ。でもそうゆうなるほどくんだから…大好きなんだけどさ」
「真宵ちゃん…」
ちょっと恥じらう様子は昔と全然変わってない。
ぴったり寄り添っておでこをすりあわせる。そしてゆっくり唇を合わせ………あれ?
「なるほどくん、ちょっと待って?」
「ま、真宵ちゃん?」
あとちょっとのところでぼくの顔を押さえて、するりと腕の中から逃げてしまった。
「真宵ちゃん?どうしたの、トイレ?」
「ううん。ちょっと…」
真宵ちゃんはベットから降りるとドアへ行き、そしてそのドアをそっと開けた。

 * * * * *

「あ、やっぱりみぬきちゃんだー」
「ま、まよいちゃん!」
暗い床をぼんやり見ていていたから、突然ドアが開いてすごくビックリした。
「どうしたの?眠れない?」
まよいちゃんはしゃがんで優しい声で聞く。
「あ…みぬきね、えと、あの…」
「怖い夢、見ちゃった?」
「!! う、うん!わかるの?すごい、まよいちゃん」
「わかっちゃうんだよーなにせ霊媒師だからね!」
「わぁーすごいすごい!」
「さ、じゃあこっちおいでよ。一緒に寝よう」
「えっいいの?」
「怖い夢見た時は1人で寝ちゃいけないんだよー?」
言うやいなや真宵ちゃんは立ち上がってみぬきの手をとってベットへ向かう。
パパのおっきい手とは違って柔らかくて綺麗な手で、なんだかドキドキする。
「みぬき、起きちゃったのか」
パパがベットで少し苦笑いしながら寝そべっていて、布団をめくってみぬき達を招き入れる。
パパとまよいちゃんの間にみぬきが収まるかたちで寝そべる。ちょっと狭いけど、さっきのような寂しさはもう全然感じない。
「うーん、ちょっとキツいな」
「そう?あったかくてこのくらいがいいよ。ねぇみぬきちゃん」
「うん!」
ぽかぽかの布団に潜ると、パパの匂いと一緒にまよいちゃんの甘くていい匂いがした。
(いい匂い…これがママの匂いなのかなぁ…)
そう思うとなんだかうずうずと無性に甘えたくなって、思い切ってまよいちゃんの柔らかい胸に抱きついてみた。
「みぬきちゃん?」
嫌がるかな、と思ったけど、まよいちゃんは逆にみぬきをふわっと抱きしめて、背中をぽんぽんとさすってくれた。
「よしよし、怖かったねぇ」
「みぬき、今日はずいぶん甘えん坊だな」
「いいじゃない。あれ、なるほどくんもよしよししてほしい?」
「……別に」
「あー意地張っちゃって。もうしょうがないなぁ、ほら」
「うわっちょっと真宵ちゃん?」
まよいちゃんがパパの体をぐいっと抱き寄せて、細い腕でみぬきとパパの2人を思いっきり抱きしめる。
「きゃははは、パパ苦しいよー」
「いやいや、真宵ちゃんっ?ぼくはいいって!」
「あははは、おりゃー」
2人の間にぎゅうっと挟まれて苦しかったけど、不思議と安心してずっとこうしてたいって思った。
まよいちゃんはやっぱり柔らかくて、みぬきはこっそり小さな小さな声で、ママってささやいた。

 * * * * *

「みぬき、ずいぶん真宵ちゃんに懐いてたな」
「ふふ。女の子どうしだからかなぁ」
そう言う真宵ちゃんはとても柔らかい笑みでみぬきを見つめ、髪を撫でている。みぬきは真宵ちゃんの胸に顔をうずめたまますっかり安心して眠ってしまった。
みぬきを見つめる真宵ちゃんの微笑みはなんだか母性というか、不思議な包容力がある。
「…真宵ちゃん?」
「ん?」
それがみぬきだけに向けているのが少し寂しくて、小さく呼びかける。
ぱっと顔を上げた真宵ちゃんはいつもの真宵ちゃんで、少し安心しながらそっと唇を寄せた。
「……ん」
「………さっきのぶん」
「……ちょっとヤキモチやいてたでしょ」
「やいてません」
「ウソばっかり」
図星なのが悔しくもあり、ちょっと嬉しくもある。
くすくす笑う真宵ちゃんに仕返しとばかりに強めに口付けしようとすると、
「……ん〜…ママ…」
みぬきがもぞもぞと真宵ちゃんの胸に頬ずりした。
「ふふ…ママ、かぁ」
と嬉しそうにみぬきを優しく抱きしめた。
ぼくはすっかり勢いがそがれてしまい、諦めて引き下がる。
「今日はどうもダメみたいだな…」
「残念?パパ」
「…まぁ、こうゆうのもありかな、ママ」
「そうだね」
2人でくすくす笑いながらみぬきをぽんぽんと撫でて手をつなぐ。
こうゆう過ごし方もいいかもしれない。
みぬきと真宵ちゃんの可愛い寝顔を見て、目を閉じる。
この子達を護りたい。自分の中で父親の心がほのかに育つのを感じた。


《終》


みぬきちゃん初登場!
バッチ剥奪後すぐあたりのイメージです。
なるほど家には絶対的に母性が足りないと思います。
そこを真宵ちゃんがいい感じに補ってくれたらいいなと願って(*^-^*)

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あきゅろす。
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