[通常モード] [URL送信]
ページ3
 夜風以外の音が絶えた戦場に、紅蓮弐式は佇んでいた。


 その主――紅月カレンは、コックピットの中で周囲を警戒しつつ、備え付けられた通信機に向けて口を開いた。


「卜部さん、こっちは終わりました。そちらは?」


 呼ぶ先は、今や数少ない仲間の一人となった卜部巧雪である。一拍おいて、画面の一部が切り替わり、卜部のどこか抜き身の刀を思わせる細面が現れる。


『こちらも終了した、追撃もない。所定のルートで合流しよう』


「了解しました」


 返事があったことに安堵しつつ、カレンは通信を切った。その瞬間、レーダーに反応。カレンの目が鋭く細められるが、識別信号が味方であると知り、わずかに警戒を解く。


 近づいてくるのは、先程まで追われていた無頼だ。


『どうやら上手くいったようだな』


 直後、画面の一角に現れたのはどことなく偉そうな少女である。雪のように白い肌に、長く特徴的な緑髪。その整った顔立ちは、女であるカレンから見ても綺麗だと思うが、その実、見た目に騙されてはいけないということを、カレンは今までの生活で熟知していた。いや、悲しいかな、熟知せざるを得なかった。


「C.C.!アンタねぇ・・・私が攻撃したら反転して援護する手はずだったでしょうが!それなのに今さら来てなにが『上手くいったようだな』よ!」


 悲しいかな、いつの間にやら彼女の声マネも上手くなった。


『なにを怒ることがある?お前ならばあの程度の敵など相手にならんと考えた結果、私はルートの確認という大事な作業に挑むことができたのだぞ?言うなれば私からの信頼だ。感謝こそすれ、怒鳴られるいわれなどないではないか。
 ほれ、感謝してもらおう。この私がお前を信頼してやったのだぞ?その上、撤退路も確保できた。私に対して土下座の一つや二つあってもいいだろう?』


「誰がするかっ!」


 自身が放った文句になにやら長々と返され、いつの間にやら説教に発展していたが、カレンは一言で斬って捨てた。


 綺麗なバラには棘があるとよく言われるが、この緑髪の少女に至っては、棘の上に毒まで塗ってある。黙っていれば綺麗なくせに、口を開けばこの有り様だ。今まで一度たりとも言い負かした覚えがない。最近やっと諦めがついてきた。


「馬鹿なこと言ってないで、さっさと合流するわよ」


『ふむ、嘆かわしいな。共に歩む仲間に感謝の言葉一つ無いとは。それとも照れて口に出せないのか?可愛いところもあるじゃないか、ん?どうなんだ?』


「アンタいい加減にしないと、もうピザ買ってあげないわよ」


 もはや定番となった一言で会話を終了。いい加減に合流を始めなければ間に合わない。カレンはグリップを操って、撃破したサザーランドの内、損傷が少ない二騎を紅蓮に掴ませる。C.C.も無頼の腕で一騎を掴んだ。


 撃破したKMFは、そのまま部品の補給にもなる。相手の装備を奪って自分の装備を充実させる。典型的なゲリラ戦法だ。相手を消耗させ、自陣を充実させるという点で、現状では最も効率のいい作戦ではある。


 それに加え、カレンとC.C.が敵をひきつけている間に、卜部が率いる別働隊が相手の後詰めを担う部隊を奇襲し、援軍を呼ばれる前に潰す。ついでに物資を奪うのである。補給路の大半が絶たれた今、物資が得られるならば出所は気にしていられない。


『・・・いつまで、こうしていられることか』


「なによ、泣き言なんてらしくもない」


 画面の中の中でC.C.が呟いた一言に、カレンは強気に言い返した。言いつつも、カレンにだってわかっている。いつまでもゲリラ戦を続けて逃げ回っているわけにはいかない。このままではいつか擦り切れ、心が折れる。それはどんな人間でも変わらない。


「だいたい、あなたがあの青い月下を予備パーツにしないのがいけないのよ。アレを分解すれば、奪うものも少しは減らせるのに」


 今のところ拠点としているトレーラーの中に座っている、一騎のKMFを指して言うと、C.C.は珍しくその傍若無人なナリを潜め、静かに言った。


『・・・・・・そうだな。だが、アレは譲れん。絶対に分解はしない』


「なによ、今の間は」


『さてな、自分の胸に手を当てて考えてみるがいい。とにかく、あの月下の扱いは私に任せてもらう。わざわざ輻射波動が使える機体を捨てるのももったいない話だからな』


 C.C.はどこか含んだような言葉でその会話を終わらせた。カレンはその様子に首を傾げつつ、件の青い月下に思いを馳せた。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!