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それから暫く。
ひたすら廃病院で雨が止むのを待っていたが、ようやく霧雨程度になってきた。
「だいぶ小降りになったか」
呟いて振り返ると、女はシーツにくるまったままベッドで丸くなっていた。
大福のようなフォルムだ。
クロは女の肩を揺する。
「おい。置いてくぞ」
「ふぉっ!?…あ、寝てましたか。昨晩こちらに来たばかりで、疲れていたものでつい…」
「行くぜ。手伝ってもらった礼だ、何か奢ってやる」
「えっ、本当ですかぁ!?やったー」
跳ね起きた女は服と髪を軽く整えると、嬉しそうにクロの後を付いてくる。
「…レディ」
クロは足を止めた。
「はい、何か?」
「何か、じゃねぇだろ。警戒心ってもんが備わってねぇのか」
「え?」
「出会ったばかりの見ず知らずの男に付いて来ちゃっていいのかよ、って聞いてんだよ」
「えー?クロさん、とっても良い人だと思いますし。大丈夫です!」
謎の自信を掲げる女に、クロは首を振って再び背を向けた。
調子を狂わされる。
いや、この女がクロに付いて歩くのは自己責任だ。
そう無理やり自分を丸め込んだ。
グラスストリート。
由来は特産品がガラスだったことにある。今でも硝子細工は売りに出されていた。
昔はそれなりに観光客も来ていて、常に人で賑わうメインストリートだったのだ。
だがゴーストの恐慌が世界を侵すと人々は国外に出ることもなくなり、街はすっかり寂れてしまった。
そのメインストリートも今や街の人間でさえあまり歩かなくなり、霧が流れる静かな街並みはまるでゴーストタウン。
洒落にならない。
「素敵な通りですねぇ。この石畳なんかホラ、ガラスが混じってるんですね。キラキラしてて綺麗です」
「そうかぁ?墓場の方が活気があるってもんだろ」
「墓地は活気ないですよ…死者が眠る場所なんですから」
冗談も真面目に返されてしまった。
霧の中にぼんやりとした街頭の灯りが浮かび上がっている。
グラスストリートは古い通りだ。
建物も一昔前のレトロな雰囲気が魅力だったのだが、今となっては暗さに拍車をかけるだけに見えた。
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