雪の舞う夜 「………………」 呪いだと思っていた。 ずっと、呪われてるんだと思っていた。 愛していた養父をAKUMAにしたから。 マナが怒ったんだと思っていた。 マナが、僕を呪ったんだと思っていた。 消せない罪を忘れないように。 地獄のような世界で、更なる地獄に突き落とすように。 でも、違った。 違ったんだ。 それは、呪いじゃない。 呪いじゃなかった。 『キライよ…。アレンくんの左眼なんか、キライ……』 リナリーは、そう言うけれど。 『あいつの見てる世界って、地獄だな』 ラビは、コムイさんにそう言ったけれど。 『どうして、一緒に戦ってくれないの』 『……ごめん』 僕には、謝ることしかできないんだ。 この左眼は、大切なもの。 黒白の二つの世界は、失えないもの。 だって、そこにはマナがいる。 黒の世界は、マナの目線だから。 ロードに潰され、一度見えなくなった左眼。 NOAHが敵だと分かって、AKUMAを見分ける眼が使えなくなって、人間が全て敵に見えることが恐ろしかった。 NOAH(人間)相手に戦うことが、恐ろしかった。 僕にとって、人間は守るべき相手だったから。 団服を着る意味を、僕はまだ理解していなかった。 エクソシストは、数多の人間の中で、人間を敵と見て戦っていた。 その中にいるAKUMAと戦うために、身を曝して囮となって……守るべき人間を守るために。 だから僕も、この団服と共に覚悟を決めた。 たとえ、左眼がもう見えなくなっても、僕はエクソシストを続けることを。 人間の中で人間を疑って戦うことを。 仲間と同じ、覚悟をしたんだ。 でも、それはマナを否定すること。 仲間が出来たから、マナはもういらない、と言っていることと同義。 僕にとって、マナは大切な人。 愛した養父。 僕に手を差し伸べてくれた、優しい人。 必要なくなる日なんて、一生来ない。 いつだって、マナがいないと心細かった。 あの日から、 マナが僕の世界の全てだった。 だから、やっぱり左眼を失うことはできなかった。 マナが僕の中から居なくなるなんて、恐ろしかった。 だから、僕は望んだんだ。 だから、僕はマナの名を口にした。 震える声で、一人にしないでと。 離れていかないでと。 白と黒の世界を、 ラビ曰く地獄の世界を、 哀しき彼らの姿が見れる世界を、 自らで望んだ。 それが、罪の象徴だと言うのならば。 それが、マナの示した道ならば。 それが、マナの証明だと言うのならば。 僕は、喜んで、それを受け入れる。 大切なものものは、昔失くした。 ずっと、そう思っていた。 けれど、マナが僕の中にいるのならば、 左眼にAKUMAの魂が映るならば、 大切なものは、未だここにある。 ……ごめん。 僕には謝ることしかできない。 どんなに僕を仲間だと思ってくれていても、 どれだけ僕が仲間だと思っていても、 どれだけ僕が守りたいと思っていても、 誰一人、何一つ、マナには敵わない。 キミが僕の左眼を否定するなら、 キミが僕の世界を否定するなら、 キミがマナを否定するなら、 僕は、キミを否定する。 偽りの笑顔の下で、侮蔑する。 相入れられまいが、 異端分子とみなされようが、 仲間が誰一人居なくなろうが、 僕には関係ない。 ずっと、一人で歩いてきた道だった。 ずっと、マナと二人で歩いてきた道だった。 それがもう一度一人になろうと、 もう一度二人になろうと、 僕が為すことは変わらない。 ただ歩き続けるだけだ。 マナとの約束を守るだけだ。 たとえそれが、誰かに決められた道だったとしても。 たとえそれが、誰にも受け入れてもらえない選択だったとしても。 マナが左眼に居てくれれば、それで良い。 「ぁぁ…、マナ、おかえり」 この額のペンタクルにマナが宿っているのならば、 この左眼の呪いがマナの証明になると言うのならば、 それさえも、愛おしい。 [戻る] |