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思い出すもの
買い物に出かけた街の往来で、僕は既視感を覚えた。
ぱちくりと瞬きを一つして、そして、悟る。
ああ、そうか。
ここは、あのときの街に似ているんだ。
数歩先で立ち止まっているリナリーが、不思議そうに振り返って僕の名を呼ぶ。
僕は懐かしさに一瞬目を細め、すぐに笑顔を形作ってリナリーの傍に駆けた。

あのとき。
追いかけたのは黒尽くめの長身。
名を呼んだのは心地の良い低音。
風に翻ったのは赤い癖のある髪。
その向こうに見えたのは、自ら光を発す明るい太陽ではなく、それを反射する白い月。
足もとは舗装された煉瓦ではなく、砂利道。
心は弾んでいる今とは逆に、最悪だったのに。
それでも、思い出されるのはあのときのこと。



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