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一話 必ず訪れる、それは最後の瞬間
「ねえ、新一…あの、時言った言葉、覚えて、る?」
学校の帰り道。
視線の先の夕日は眩しいくらい赤い。
それは太陽の断末魔。
昼間は暑くて嫌われる太陽も沈む瞬間だけは美しさで人を虜にする。
この俺も例に漏れず、最後の美しさに見惚れた。
隣には自分が縛りつけた幼馴染み。
「あの時って?」
少しでも言わなくてはならない言葉を言う時を遅らせようと惚けてみる。
昔。『待っててくれ』なんてコナンの姿で伝えて、ずっと彼女は待っててくれた。
不確かで無責任な言葉。
それを信じて、彼女は……
これから、俺は最低な言葉を蘭に吐く。
それが、ずっと信じて待っててくれた彼女に対する裏切りなのだと分かっていても、言わない訳にはいかない。
一度気づいてしまったら、己の気持ちには嘘はつけない。
俺は真実を追い求める探偵なんだから__。

「しらがみさまの事件の後よ。新一、離れたくないって言った私に、俺もだって言ったよね?そのときの推理…また、新一がいなくなる前に、聞かせて、ほしいの…答えを…」
蘭が立ち止まったので、俺も数歩の距離のところで立ち止まる。
「そういうお前は?」
「え?」
「お前も推理してみたんだろ?お前の答えは?」
蘭の顔色は赤い夕日で判別が出来ない。
そういう俺も夕日に背を向けてるから、逆光で蘭にはどんな表情をしているかなんか分からないだろう。
「…あ…私は…私の、答えは…」
「俺は好きだよ」
蘭の震える声に被せて、俺の答えを言う。
蘭が俺を見つめる。
「新、い…ち……」
その視線を受け止めて、俺も蘭を見つめる。
そして、言葉の刃で蘭の心を切り裂く。
「幼馴染として」
「!?」
蘭が息を飲むのが分かった。
普通、愛の告白にこんな言葉は付け加えない。
でも、これが俺の本当の気持ちだから。
「悪ぃ、蘭。結局、俺はお前を幼馴染としてしか思えないんだ。」
「っっコナンくんに待っててくれって伝言残したときも?」
「ああ」
蘭の顔が悲痛に歪む。目から涙が溢れて、夕日で赤く染まる。
それは、まるで蘭の心の傷から流れる血のようだと思った。
「それってないんじゃない!?散々待たせておいてっ。やっと…やっと帰って来たと思ったら、そんなこと…」
俺は酷いくらい冷静に答える。俺には、ちゃんと己の気持ちをまとめる時間があったから、もう迷わない。
「俺、ずっと勘違いしてたんだ。周りの奴らが囃し立てるから、俺は蘭に恋してるんだと思い込んでたんだ。お前が一番近くにいる女だったから、思春期の俺はドキドキしてたんだ。箱を開けてみたら、その程度だったんだよ」
「私はっ…私は、好きだよ、新一のこと!だから、待ってたの。新一が帰って来るまで」
ああ、俺はどうして蘭を傷つけるしか出来ないんだろう?
蘭が大切で、泣かせたくないっていう思いは変わらないのに…。
「お前の気持ちがどうとか言うつもりはねェよ。それはもう少し大きくなったら、恋すれば自然と分かるはずだから。」
大切な人を泣かせることしか出来ない自分に腹を立てて、少しばかり語尾が荒くなる。
失言したことに気づいたのは、蘭に言われてからだ。
「恋…したの?新一は…だから、私への気持ちが恋じゃなかったって気づいたのね…?」
「え?あ…ああ」
しまったと口を手で塞いでも取り消せる訳でもなく、認めるしか道はなかった。
「どんなひとか聞いてもいい?」
「ずっと側にいてくれた子だよ。ここに帰れない間中、俺を支えてくれてた子だよ」
「居なかった間は何をしてたの?」
蘭はもう平静を取り戻していた。
「事件に巻き込まれてた。凄い危険だったから、帰りたくても帰れなくてさ…
あいつも、その事件の関係者なんだ。自分も辛かったのに泣かずに、いつも自分は後回しで他人を気づかうような子なんだ」
「優しいのね…優しくて強いひと…」
「ああ、優しくて強くて、脆い…そんなやつだよ。だから、俺が守ってやりたいって思うんだ」
俺は素直に心の内を話した。蘭だったから言えたのかもしれない。
「新一、それのろけだよ?」
「あっ!?」
言われて、顔が火照る。蘭がクスクスと笑いながら、からかうように顔を覗く。
「新一、顔、赤いよ?」
「ばーろぉ、夕日のせいだよ」
やっぱりからかわれると照れくさくて、顔を背ける。
「残念でしたっもう夕日は沈んでるよ〜」
蘭の言葉に空を仰げば、もう空には星がちらほらと瞬いていた。
最後の砦も呆気なく崩れて、俺はふて腐れながら家までの道を歩く。
後ろでは蘭がまだ笑いを収められないでいる。
それでも、彼女の足取りは軽かった。
分かってくれたのだと理解すると、蘭へ感謝の思いが溢れてきた。
ありがとう、蘭。そしてごめん。
それでも…それでも俺はあいつが好きなんだ。

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あきゅろす。
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