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 汗も汚れも疲れも洗い流して、大浴場から少し離れた露天に出てみたんだけど。


「冬に来たかったなあ」
「……なんも見えねぇ」
「だから誰も居ないんスかね?」
「森くん、それは違うと思うな」
「オレもそう思ーう」


 すっかり仲良くなったメンバーでなんだか貸し切り露天風呂状態に。
 あまり広くないから助かるんだけどさ。

 瀬戸はしかめ面で外を見て文句言ってるんだが、確かに真っ暗なんだよね。海だから。
 ちらほら明かりはあるんだけど、ほとんど景色なんて見えない。明け方が狙い目だろうな、これは。


「なぁんか、修学旅行って気分じゃねーなー」


 多貴が息を吐くように言って、縁の岩に腕を置き竹で組まれた屋根を見上げた。


「時間とか予定が決まってる分、嫌でも修学旅行って思えるっスよ」
「修学旅行のスケジュールの大半は理事長が行きたい所とかで独断なんだけどね」

「え、」
「…は?」
「マジっスか」
「なんで知ってんのさハニー」
「そろそろハニーはやめてねダーリン」


 然り気無く綺麗な微笑みで言っちゃってるけど、本当になんで知ってんの。
 ぽかーんとする四人を前に伊織は何の躊躇いもなく返してくれた。


「松本先生に愚痴られたから?」


 いや首かしげても可愛いだけだから。
 つかまっつん、なに伊織に愚痴ってんだよあのズボラ教師が。


「まっつんの伊織に対する信頼って凄まじいよな」


 とか言いながら多貴は苦笑いして溜め息を吐いて。
 確かに伊織への信頼はあるよな、分かるよまっつん。なんかもう貫禄あるもんな。
 立ち位置保護者はあなどれない。


「高校生でしかも自分が担任してる生徒に頼る教師って恋人出来なそうだよね」
「いやー痛い。それは痛いぜ伊織さん」
「まっつん聞いたら泣くぞ」
「……」
「北条の嫁さんキツいっス」


 真顔で切った伊織に、笑いながら片手で目を覆う多貴。なぜか黙って口元に手をやる瀬戸に、然り気無く嫁さんとか言った幸丸。
 俺は真顔でありえそうな事を言ってみた。
 




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あきゅろす。
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