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物思いに耽る。 side/瀬戸
 

 ───考えるのは、笑顔。時々見せる妖艶さ。
 あの時この屋上で見た、まるで踊っているかのような無駄のない動き。
 初めて面と向かった時は互いに良い印象ではなかったと思うが、今は出会って抱いたものとは違う感情を抱いてる。

 望月や北条に言われた言葉も同時に思い出す。あれは警告されたようで、自分が仁科諒に対して抱く気持ちを、あの時既に二人は知っていたのかもしれない。
 けれどもそれを聞いた所で、明確な答えは返ってこないだろう。あの二人だからこぞ己で気付げと。


 瀬戸和史は悩んでいた。悩んだことのない類いのようで、言葉通り頭を抱えていた瀬戸は投げ出すように空を見上げた。
 所々に白い雲はあるが、よく晴れた空が広がっている。


「……、あー…」


 弱々しく声をあげ、両手を後ろにつけて溜め息を吐き出す。
 見た目からはそうそうこの弱々しさは感じられない外見だが、中身は至って弱々しいのである。

 いくら考えても納得出来る答えはなく、頭の中は色々なことが詰まってごちゃついていた。授業中にも関わらず屋上にいるのは、自分らしくない逃げのようなもので。
 悩みの種である自分の前の席のヤツの近くにいたいような居たくないような。


「……って、なに考えてんだ俺は」


 言いながらも、自分の鳩尾辺りの違和感に気付く。

 近くに居てぇって、まるでアイツのこと好きみてぇじゃん。女子か。


 眉間に深くシワを寄せながら足元に視線を向ける。灰色のコンクリートと、転がる小さな石。

 沈黙。


「───い、や……、いやいやいや、」


 自嘲するような笑いと共に首を振った。
 瀬戸は独り言が多いようだ。

 冗談、と言い聞かせるように笑う。口元がわずかにひくついている。


 ……まさか、俺が? アイツを?
 …………。


「…ハッ、……ハハハ。ナイナイ」


 その笑いは空笑いに終わり、言葉はカタコトになる。
 答えは見えてこないまま授業を終わらせるチャイムが、タイムアップとでもいうかのように、鳴った。



 


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