現実逃避くらいしたい。‐01
「───は…っ、くしゅッ」
ずずっ、と鼻を啜り、霧島蒼司は溜め息を吐く。
あの意味の分からない生徒会役員との遭遇から2週間程。ここに入学してから、本来の目的である元恋人の仁科諒とあまり接触出来ていないような気がしていた。
…なんだか逃げているだけのような。
なにから、とは蒼司にとってもはや愚問である。
「……はぁ」
再び重く息を吐くと、横向きにしていた体を仰向けに寝返り空を見た。
ちなみに蒼司は生徒の出入りが禁止されている一棟の屋上にいる。
どうやって入ったかは本人にしか分からないが、ここなら誰にも見つからずに時間を潰す事が出来ると、最近のお気に入りの場所になっていた。
そして物思いに耽るのだ。
自分は一体、この高校に何の為に来たんだっけ、と。
暖かい風が所々跳ねた髪を揺らす。ゆっくりと瞼を下ろせば、愛しい人のあどけない声が聞こえてくる。
『───蒼司!』
キラキラした笑顔。まだ幼さの残る中学の制服を身に付けた姿。
あの頃が幸せだったのは、俺だけじゃないよね、諒…?
仰向けに寝転んだまま、まるで眠るかのように目を閉じ、蒼司の頭の中が過去の愛しさで埋め尽くされかけた時だった。
「霧島蒼司」
「───…」
思わず心中で舌打ちをした。
普通なら聞き惚れるような落ち着いた深みのある声で、無残にも現実に引き戻されてしまった。しかもわざわざフルネームで呼ぶというサービス付きである。
ゆっくりと瞼を上げれば、どこで知ったのか、その生徒は蒼司の頭の横、少し離れた場所に、見下ろすように立っていた。
ただ立っているその姿すら、美形であれば絵になるとは何とも可笑しな事態だ。
「先日から姿を見かけなかったが、休んでいたのか」
「……、いや、来てましたけど」
ただあんた達と会わないようにしていただけで、という言葉は思うにとどめ、いまだにじっと見下ろしてくる生徒を見る。
起き上がる気は更々ないようだ。
「、というか俺がいつどこで何をしようと関係ないでしょ、会長サン」
蒼司が溜息混じりに言うと、見た目と中身のギャップが大きい金髪の生徒会長、五十鈴馨は表情を変えることなく口を開き、平然と言い放った。
「いや、ある。 目の届く所に居ろ」
「……、はあ?」
何を言っているんだ、この男は。
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