05
「───触んな」
「え?」
「…っわ、」
返事ではない唐突な拒絶で反射的に腕を離した瞬間、肩に腕を回されて引き寄せられた。
その勢いでバランスを崩して咄嗟にしがみついてしまったが、服越しに伝わる温もりは愛しいそれだった。
瀬戸の胸元にあったアミさんの手は離れ、その安堵でか細く息を吐き出す。
「な、なに?」
「お気に入りがどうとか考えンのは勝手だが、こいつとお前らを一緒にするな」
「……なにそれ、どういうこと?」
「一時的な関わり程度で俺を知ったような勘違いしてんのか知らねぇけど、お前らの誰か一人でも俺から求めた事はねぇよ」
「っそりゃ、そうだけど…、」
「お前らの相手はいくらでもいるだろうが。そっちで満足してろ。俺は関わる気はねぇし、お前らも関わって来るな。今までそうやってきたんだろ」
「……、」
夜遊び、と称して相手によって拒む事はあっても去る者は追わない後腐れ無い関係だけだったんだ。
好きな時に都合がつけば。そういう関わりで過ごしている人達もいるのは彼女彼らなりの理由があるからで、そこに否定はないけど。
瀬戸に対してはそうじゃなかったんだ。
夜出歩くのを止めて暫く経つはずなのに、彼女はそれを知っても尚、瀬戸とは以前と同じように関わりを持ちたいと思う相手だったのか。
怖がられていてもモテるのはわかってた。
今までそれを目の当たりにしてきて、仕方ない事ではあったし本人は興味が無くて周りも恐る恐るな所はあったけど。
夜に関わっていた人達は違って、一時的にでも相手になる事が出来たから遠慮無しに寄ってくる。
掻い摘まんでもその話を聞くだけじゃ分からなかった。
感じた事のない不安や焦り、そこに混ざっている濃い愁いが酷く息苦しい。
大丈夫だと分かっていても独占欲が膨れ上がって自己嫌悪すら起こす。
「……この子、そんなに大事?」
「"遊び"じゃねぇから」
アミさんの声は寂しそうではあったけど諦めも含んでいて、申し訳ない気持ちもあるのにそれよりも安堵が強かった。
少しの沈黙のあと、肩に回っていた手が外れて手首を掴まれさっさと歩き出した瀬戸に引っ張られて慌てて足を動かす。
振り返るとアミさんはもう背を向けていた。
「瀬戸、」
「……」
斜め前の瀬戸の表情はよく見えず、ただ無言で歩き続けるそれについて行くしかなかった。
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