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04
 


 恐い、とは思わなかった。
 ただ最近で見慣れてしまった豊かな表情や雰囲気の柔らかさ、学校での友達が増えた事で見えてきた周囲への関心など、さっきまで違和感なく馴染んでいた瀬戸自身の空気が嘘みたいに消えたように見える。
 冷たくて、自分の知らない過去の瀬戸が目の前に居る。
 実際以前がどうだったかも分からないし直感でしかないけど、4月に屋上で初めて瀬戸と会話した時に感じた鋭さや冷たさよりも、今目の前でアミさんと向き合う瀬戸は痛いほど攻撃的で警戒心に包まれて、常に威嚇状態であるに等しい気がした。



「さっきの年相応な表情も可愛くて好きだけどー、やっぱり今の方がカズって感じする! 今も夜は出てるんだ?ここら辺じゃなくて違う場所にしたの?」



 アミさんの言葉で、自分の直感が合っていたのを知った。
 周りに興味が無さそうで、誰も信じていないような、どちらも瀬戸自身なのにこのまま放っておいたら距離が遠くなる気がして咄嗟に腕を掴んだ。



「……瀬戸、」
「え? あ、もしかして君、カズが夜に出歩いてた事知らないの? 最近友達になった子かな、夜は遊ばないの?」



 アミさんがずっと何か言ってるし聞こえてるのに流れていく。
 見上げた先の瀬戸はこっちを見てくれないけど、掴んだ腕はアミさんのように離されたりはしない。



「最近は君と一緒に居るの?あんまりずっと独り占めされちゃうと困るんだけどー…、ってことは見なくなってから夜は他の誰ともカズは遊んでないのかな。ね、同性と遊ぶのも楽しいんだろうけどー…そろそろ溜まってるんじゃない?」



 ねぇ、と言いながら瀬戸の胸元に手を添えたアミさんを見て、急に不安に飲まれた。どす黒くて重くて吐き気すらする程のそれに、腕を掴む手は自分に引き寄せるように力が入る。

 この人に悪気なんてない。
 今まで定期的に相手をしていたんだろう。今さら性別云々で悩む事はないし、あまり考える必要も無いって頭の隅で考えていたけど。

 ───なんで瀬戸は何も言わないんだ。


 感情に飲まれて声を張り上げそうになる。こんな人目につく場所でそんな事をしたら、相手がどうあれ女性である為に誤解され兼ねない。
 迷惑はかけたくない。
 触らないで欲しい。
 瀬戸が何で黙ってるのか理由が分からなくて、声を掛けようとすれば違う言葉を吐き出しそうで、ただ腕を引く事しか出来ない。


 瀬戸を見られずに俯きがちになっていたら、頭上辺りから溜め息が聞こえた。



 


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あきゅろす。
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