03
女の人───アミさんは瀬戸に腕を離されたもののそれに関しては特に気にしていないのか、遠慮なしにこっちに近付く。
店の横のスペースとは言え狭いので、その場に留まるしか出来ない。
「ねぇカズ、そういえばさっき笑ってなかった? あたし初めて見たんだけど!」
「知らねぇよ。つか邪魔」
「えー、そんなに仲良しだったら夜も一緒に遊べば良いのにー。リカ達も来るの待ってるんだよ? …あ、もしかして、」
俺と瀬戸の間に入ってきたアミさんは楽しそうに一人で喋り続けて、この人は瀬戸がまだ夜に出ていた時の知り合いなのか、など知らなかった過去を次々に明かしていく。
また知らない名前が出たすぐに、アミさんは思わせ振りに言葉を切って俺と瀬戸を見た。
「今のお気に入りってぇ、この子?」
「は?」
「え、」
全員が違う疑問を浮かべたが、しかしアミさんは喋り続ける。
「だってカズ、ちょっとの間でもお気に入り出来たらその人の所ばっかりで相手してくれなくなるじゃない? でも女じゃないのに何であたしとか他と遊んでくれなくなっちゃったのよー、急に居なくなっちゃったし」
「………」
お気に入りって何だろ。
ただ夜の知り合いってわけじゃないのか。女のお気に入りなら予想は安易に出来るし瀬戸もそんな感じの事は言っていたから、不思議とは思わないけど。
なんで俺をそのお気に入りってのに当て嵌めたんだ。
「夜に出てこなくなったけど喧嘩もやってないの?男の子のお気に入りなら一緒に遊ぼーよ、」
「さっきからうるせぇ」
「…カズ?」
一瞬、吸い込んだ息を吐き出すことが出来なくなった。
アミさんが来るまで柔らかかった瀬戸の雰囲気が一気に鋭くなって、出会ったばっかりの頃に見た事があるその目が酷く冷たく感じる。
でもあの時より、今の方が重い。
瀬戸は普段からまったくと言って良いほど、本気で怒るなんてことはなく温厚というか寛容だ。
喧嘩を売られた時だって警戒はするけどキレるわけではない。
これは俺が出会う前の、喧嘩ばかりしてた頃の瀬戸だ、と瞬間的に理解した。
荒れる事はなく静かなのに、ただ重く冷たい声が刺さるようで痛い。自分に向けられてるわけじゃないのに。
「カズ、どうしたの?」
アミさんは瀬戸の変化に気が付いてないんだろうか。
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