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02
 


 店の横にあるスペースに寄ってから、出来立てでまだ熱い人形焼きを割ると中から淡いピンクの餡が出てくる。
 黒い粒のようなものは葉だろうか。桜餅を連想させる匂いがした。



「すげー、美味しそう。いただきまーす」
「落とすなよ」



 瀬戸に割れた片方を渡して人形焼きにかぶり付いた。
 塩漬けした葉と桜の風味が一瞬で巡り、ほんのり甘い生地は軽くふわふわしていて、出来立てでしか味わえない香ばしさもある。



「んー…おいし」
「そりゃよかったな」



 見上げた先で瀬戸は目を細めて笑い、滲み出る優しい雰囲気で更にこの旨味が上乗せされた気がした。

 抹茶クリームを割ると思っていたよりも濃い緑で、口に入れれば甘さばかりではなくしっかり抹茶特有の苦味も感じられる。
 拘ってるなあ。


 箱詰めの人形焼きより大きいとは言っても小振りなので、二口程度で終わってしまう名残惜しい気持ちを抱きつつ最後の一口を入れた時だった。



「───…あ! やっぱりカズじゃん!」



 高い声とほぼ同時、隣にいた瀬戸の腕に誰かが抱き着いた。



「あ?」
「久しぶりー、最近見ないから何してんのかなぁって気にしてたんだからー」
「……アミか」



 瀬戸の言葉で知り合いか、と何故か反射的に息を潜めてしまったけど、瀬戸の影に隠れる位置に居るからか俺には気付いていない。

 突然現れた女性は見た目大学生くらいの人で、甘えたような声でかなり親しげに瀬戸に話し掛けてきた。短パンにセーターを着ていたがちょっと寒そう。


 さらりと腕をほどいた瀬戸にちょっと安堵しつつ、口の中の甘味を嚥下して様子を伺う。



「最近さぁ、夜いないじゃん?どうしたの?」
「お前に関係ない」
「相変わらずつめたーい。てかひとり?」



 言いながら瀬戸の向こう側を覗いたその人とばっちり目が合ってしまい、瞬間的に持っていた小さい紙袋を握り潰してしまった。



「え、この子カズの知り合い?友達?ちょーカッコいいじゃん、つかちょっと可愛いし、何々、遊んでたの?」
「うるせぇ…関係ないっつったろ」
「いーじゃんそれくらい。 ねえ?」
「え、いや…」
「カワイー! ね、名前は?カズと友達?」



 一人で盛り上がる女性はあまりにぐいぐい来るもんだからちょっと恐い。


 


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