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蒼司の展開。‐01
 


「───あれが瀬戸和史君、ね」



 …愛しい彼のそばに、気に入らない人間がまた増えたかな。

 中学時代の元恋人、仁科諒を呼び出してすぐにタイミング良く現れ連れ去ってしまった瀬戸の後ろ姿を、霧島蒼司は表情を変える事なく見つめ呟いた。


 授業が開始するチャイムの音を耳に入れながらも動こうとはせず、先程自分の言葉に若干の戸惑いを見せた元恋人の表情を思い出して薄く笑みを浮かべる。
 中学の時も、こうして人気のない場所で告白して似たような表情を見た。
 付き合ってから好きになってくれた、と蒼司は気付いていたし、北海道に行くと決まった時、フラれるだろうと予想はしていたものの自分が諦めきれなかったのだ。

 嫌われたわけではない、という確信と、ひとつの問題が同時に発生していた。


 瀬戸和史。
 きっとあの生徒は、仁科諒を好いているんだろうと。そしてそれを自覚していないと。



「そのまま自覚しなくていいよ、瀬戸君」



 誰に語りかけるでもなく、ただ個人の願いの溢れとして、自分の声を聞いた。

 この高校に通っていると知ったのは、中学の先生に聞いたからだった。
 わざわざ個人の入学高校を聞く事に教師が疑問しなかったのは、仲が良い姿を見ていたからかもしれない。
 単純な、扱いやすい大人とは印象だけでどうにか出来てしまうものだと、蒼司は思い、同時に幾らか感謝はしていた。




「───そこで何をしているのかな?授業は始まっているよ」



 廊下を見つめていた蒼司は、背後からの声にゆっくりと振り向いた。
 そこに、中性的な容姿で丸みのある目が柔らかな印象の一人の男子生徒が下へ続く階段から上がって来ていた。



「……そちらこそ、他人の事は言えないと思いますが」



 そう言えば、相手は意外そうに眉を上げ、万人受けしそうな微笑みで蒼司の前に立つ。

 蒼司はその微笑みの違和感に、ただ微かに目を細めた。



「君が噂の転入生か。僕は生徒会副会長の相模葵(サガミ アオイ)、よろしく」
「……どうも。霧島です」



 何が噂の、なのか。蒼司は怪訝に思いながらも名乗れば、相模葵は少し困ったような笑顔になった。




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あきゅろす。
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