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 ───これは俺の価値観だが、誕生日に「おめでとう」と言うのは確かに産まれたその日で、後の誕生日は「今日まで生きてきた事」に対しての時間や労苦、骨折りを慰め、そして感謝する労いの意味が合っているように思う。
 めでたい日に変わりはないので祝いに違いはないけれど、ただおめでとうと言うだけでは感謝に足りない。



「産まれてきてくれてありがとう」
「………」



 産まれて、出会って、今日まで生きてきた事に。こうして祝える事に、またその先も幸福が多くあるように願いを込めて俺は言いたい。
 大事な人が産まれた日は、おめでとうだけでは足りないのだ。


 小袋を受け取った瀬戸だが、そのまま俺も引っ張られて後ろを向かされ膝に乗せられた。水に流されるような動きである。
 肩に顔が乗り抱き締められ、小さく耳元で「ありがとな」と聞こえてきて頬が緩む。
 力強い抱擁はしかし息苦しくなくて、力を抜いて凭れると首筋に擦り寄る動きを感じる。



「ケーキは昼間に食べような」
「あんのか」
「材料だけ。朝から作る」
「……あー…」



 半日程度なら作っておいても良かったかなと思ったけど、折角なら出来立てを出したい。
 瀬戸の誕生日は出掛ける予定を立てていないので、朝から作って昼でお祝いの食事にしたいなと考えたのだ。


 そんな在宅予定を話している間にも、俺の肩から首筋にかけて瀬戸が顔や頭を擦り付ける動きのあまりの可愛さにニヤケが引っ込んでくれない。
 言葉にしなくても行動で気持ちを分かりやすく表してくれる。最近は俺の影響なのか言葉で伝えてくれる事も増えて、普段言わないからこそ攻撃力が跳ね上がりいざ言われたらそれが一撃必殺レベルである。


 抱き抱えたままプレゼントを開けた瀬戸は、手の中に転がったリングピアスを見て気に入ってくれたようだった。
 黒く太いリングの表側に石が一粒入っているシンプルなデザインだが、瀬戸によく似合う気がしたのだ。

 今付けてみる、と言ってくれたので一度離れて軽く消毒してから戻るとまた抱き抱えられる。
 後ろ向きだと見えないなー、と思いながら待って、付け終えてから向き合う形になると両耳に揺れる小さなピアスが目に入った。

 大きくはないので厳つくならないし、やっぱりよく似合っている。



「んふふ」
「なんだよ」



 思わず漏れた笑いはちょっと気持ち悪かった。


 


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