03
あのセーターより一回りは大きい服だけど、温かくて一枚で十分過ごせるからかなり気に入っている。
何が瀬戸のツボに入ったのかは分からないが本人にとっては部屋着の方が良いらしい。
頬を掴んでいた手は、俺の手を袖ごと掬い上げてその状態のまま映画鑑賞する事になった。触れているのは嬉しいので特に気にする事もなく、時折紅茶を飲んだりして互いに見応えあるミステリーに見入った。
「───結構面白かったなー」
「そうだな」
エンディングとスタッフロールが流れる画面から目を離し、冷めた紅茶を飲んだ。
じっくり濃いミステリーは最後の最後で散らばった伏線回収に勤しみ、怒濤の展開は観ていてすっきり出来る。
時計は23時半を指していた。
映画が終われば深夜アニメ以外は特に観るものもなく、空になったカップを洗いに立ち上がるとテーブルのカップは二つとも瀬戸に拾われてキッチンに行ってしまう。
「おふ、ありがとう」
「ん、」
広い背中について行って眺めていたら、洗い終えて水を止めた瀬戸が濡れた手を頬にくっ付けてきて反射的に肩が上がる。
「冷たっ」
俺の反応を見て軽く笑った瀬戸の表情が好きで胸も高鳴る。
乙女だなー、と思う自分の感覚が面白い。
少しそのまま戯れてからテレビとリビングの電気を消して、瀬戸のバイト先の面白い話を聞きながら二階の自室に行った。
瀬戸はあの喫茶店で大変に可愛がられているのが良く分かる。接客は苦手だけど料理をするのは楽しいらしい。
料理に目覚めて、通常の食事だけでなくスイーツが得意になったら出来ない事あるのかって思うくらいに非の打ち所が見当たらなくなりそうだ。
相好に関しては欠点じゃない。強面といっても性格とのギャップが堪らんし単純に格好いいしコイツにマイナス面はあんのか。恋は盲目か。痘痕も靨か。否めん。
部屋に入って自然に時計へ視線をやるともう0時になっていて、一緒に居るときの時間経過の速さに未だ慣れない。
瀬戸がベッドに座ったのを横目に、机に置いていた小袋を指で吊し上げた。
「ハッピーバースデー。産まれた時間は分からんけど」
「……あ?」
振り向き様に言いながら掌に乗せた小袋を差し出したら、小袋と俺を交互に見た瀬戸が戸惑いを含んだ瞬きをした。
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