祝日‐01
───卒業式を翌週に控えた金曜の夜、自室の小物入れから取り出した小袋は年末に購入したままの姿で久しぶりに外に出てきた。
あれから意識しないようにしていたから渡したい欲は息を潜めてくれたし、前以て明日のあまぎ屋さんでのバイトは休みにして貰っている。
時計を確認するともうすぐ瀬戸のバイト上がりで、そわそわと落ち着かない気持ちを抱えたまま小袋を机に置いてリビングに戻った。
最近頻繁に家に来てくれる瀬戸だが、もちろんちゃんと自分の家にも帰っている。けど今日は事前に予定を取り付けているので、喫茶店から直でこっちに来てくれるらしい。
テレビの放映時間になると少し経ってから、ラインでバイトが終わった事とこれから向かうというメッセージが送られてくる。
帰って来たらとりあえず風呂入れて、映画見ながら紅茶でも飲もうと計画を立てながらも、ずっと落ち着かない気持ちだった。
「おかえりーお疲れさまー」
「……ただいま」
玄関前で出迎えると、未だ慣れないのか少し戸惑った後に返事が来る。前髪をピンで留めたままだからか更に可愛い。
明日は土曜で学校はお休みなので瀬戸の荷物は小さい。
いつ風呂に入るか聞くとすぐに入ると返ってきて、持っていた鞄を預かってそのまま浴室に行って貰った。
入浴中にタオルや着替えを籠の中に入れてからリビングのソファーに鞄を置き、キッチンでお湯を沸かす。
カウンターの向こうからテレビを見ると放映されているのはミステリー洋画で、丁度事件が起きた辺りだった。少し古めの映像はしかし雰囲気があって中々に面白い。
しばらくしてお湯が沸き火を消して、軽く冷ます為にキッチンで立ったままぼんやりと映画を観た。
この映画が終わる頃には23時を回っているだろうし、翌日が休みだと寝るのはいつも0時過ぎるから時間潰しに悩むこともない。
ソファーの上に放置していた携帯の通知音が聞こえて、まだ元気に立ち上る湯気を一瞥してからソファーに行く。
ライン通知は馨先輩からだった。
画面を開くと、卒業式が終わった後で話がしたいという内容で、蒼司も一緒である事は決まっているらしい。
基本的に卒業式は在校生不在で、一部は次期生徒会長であったり在校生挨拶の代表であったりで出席するが、それ以外は正面玄関付近で卒業生と会うことが出来る。
今年の卒業式は殆どの在校生が正面玄関付近に待機すると誰もが予想している。何せ今年の生徒会は過去にないくらい人気だからな。
[*][#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!