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04
 


「もう時間?」
「ああ」
「楽しみにしてる」
「あー…」



 髪を混ぜられたが最近は撫でられる事が多くてワックスを付けなくなってたから特に気にせず、乱れた髪を手櫛で雑に撫で付けて暖簾の向こうに行く背中を見送った。


 色々考えているのか翔ちゃん先輩は黙ったままで、暫くすると顔を上げ口元を手で覆ってぼんやりとどこかを見ている。
 眉を寄せた顔は近寄りがたい険しさなのに、不思議と怖くは見えない。

 横顔を眺めていたら先輩は目を閉じて低く唸るように言った。



「……あ゙ー…腹立つあの野郎」
「……」



 先輩は静かにキレている。
 覚悟しとけクソが、と不穏な発言が聞こえてきて、慧先輩が予想していた泣きは無かったが場所が場所だからかなと横顔を見て苦笑した。

 怒りに震える、というよりは泣くのを耐えているような声だと思ったから、なにも言わずにただ美味しい紅茶に口をつけた。
 雰囲気も見た目もそんな風に見えないのに、慧先輩が言っていた翔ちゃん先輩の気持ちを何となく理解する。
 お互いの立場が逆だったとしても同じような結果になる気がする、とあの人は笑っていた。その意味も今は分かる。
 だって翔ちゃん先輩はもう自分の中で納得していて、薄く開いた目があの人の行動を理解したかのような色を持っていたから。

 好きだから伝えない、なんてやっぱり寂しいと思う。でも二人にとってはそれが最善なのかもしれない。
 まあ、連絡すら取れなくなってたとは思わなかったけど。



「……急に来て悪かった、ありがとな」
「いえ、大丈夫です」



 こちらを見て言った声は優しく、人は見た目で判断するとギャップを感じやすいな、なんて思った。



「やっぱ慧は言わなかったんだね」



 ずっと黙って聞いていた睦月さんの言葉に、翔ちゃん先輩がそちらを見て眉を寄せた。不機嫌そうに。



「お前知ってたのか」
「え、うん」
「…あ゙ー……」
「俺は口止めされてたけどね」



 あっさり認めた睦月さんに対して先輩は再びカウンターに突っ伏した。
 慧先輩は留学の件について「一人は知ってる」と言っていたけど、あれは睦月さんの事だったんだ。
 でもなんであの人は睦月さんに口止めしたのに俺には話して良い、なんて言ったんだろう。本当に慧先輩は考えている事もやる事も謎だ。



 

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あきゅろす。
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