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03
 



 あの人が俺の先輩だとそんなに驚くのか、ていうか睦月さんは慧先輩とも知り合いなんだ、いや翔ちゃん先輩と知り合いなら幼馴染みであるあの人が知り合いであっても可笑しくはないか、なんて瞬間的に浮かび一人で納得した。

 あー…、と気の抜けた声を漏らした睦月さんはまじまじと俺を見る。



「なーるほどねー、じゃあ喧嘩の仕方教えてくれたっていう先輩アイツだったんだ」
「はい。皆さん知り合いだったんですね」



 瀬戸は頻繁に喧嘩してたから慧先輩のチームを知っているし、翔ちゃん先輩は幼馴染みだし瀬戸と泉さんも喧嘩関係で、というのは分かっているから納得するけど。
 こういう不良関係に縁が無さそうな睦月さんは彼らとどう知り合ったのだろう、という素朴な疑問が浮かんだものの睦月さんが違和感なく溶け込んでいるからか、不思議とそう深い考えに至らなかった。



「いやー、知り合い同士が身近に揃うとスゴいねえ」



 びっくり、なんて言っている睦月さんだけど俺から見ればもう落ち着いていて驚いているように思えない。
 しかも翔ちゃん先輩も片手で頬杖ついて気怠そうだし、この人あんまり驚かないんだろうか。
 つか情報処理が早いな。

 感心混じりに隣の先輩を見ていたら、流し目でこちらを見た翔ちゃん先輩が本題を切り出した。
 律儀に区切りが着くのを待ってる辺り、失礼だけど見た目に反して良い人だ。



「───…で、慧はどこいった?」
「慧先輩は海外へ留学しました」
「……」



 簡単に答えた途端に翔ちゃん先輩はカウンターに突っ伏した。びっくりした。



「…留学って、どこに」
「異国としか聞いてないです。でも卒業間近に行く、みたいな話だったから3月頭に先輩が来ると思いませんでした」
「……卒業単位は取ってある。学校側が許可したんだろ」



 短い髪を乱すように掻いた先輩は、しかし腕で隠れていて表情は見えない。
 雰囲気は鋭く苛ついているようだったが声は弱々しくて、深い溜め息を吐き出した先輩は小さく「めんどくせぇ」と呟いた。
 それはどこか自嘲を含んでいて、声を掛けずに黙ったまま紅茶を飲む。

 空気を読んでいるのか、睦月さんも泉さんも瀬戸側に寄って三人で他愛ない会話をしている。

 時間が近付いたのか瀬戸がカウンターから離れ、軽く頭を撫でられた。



 


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