03
入ってきた生徒に、教室内は一瞬にして静かになった。
栗色の髪は長く猫っ毛で、ひとつに束ねられてる。背が高くて脚が長い、人懐っこい笑顔。若干垂れ目で見た目は穏やかな美少年、ってか…?
「───霧島蒼司(キリシマ ソウシ)です。よろしく」
…もう会うことはないって思ってた。
それは俺だけじゃない。多分、伊織も多貴も同じ事を思ってるはず。
だって、固まって動かない。
だから俺の見間違いじゃないんだって、改めて思った。
呆然としていたら、ふっと転入生と目が合った気がして。それを確信にしたのは、そいつの目と口が、ゆっくりと、懐かしい雰囲気を持って笑ったから。
「………はは、」
まさか。なんでここに。
それしか出てこなくて、笑うしかない。
はぁ、と溜息を吐いた時、右の袖が後ろに引かれた。振り返れば、しかめ面の瀬戸。
「なに」
「…おまえ、アイツと知り合いか?」
「………」
……えぇ…、コイツ、犬か?
ただ呆然と瀬戸を見るしか出来なくて、クラスメートのざわめきでハッとして瞬きを数回して、思わず苦笑い。
お陰で瀬戸の顔が更に厳つくなりました。
「……諒、」
横から伊織の声がして顔を向ければ、真面目な顔でこっちを見てた。
「瀬戸、あとで話す」
「……」
話してどうすんだって思うけど、何か話さないと延々と聞いて来そうで面倒臭いカンジがすんだよな。
でもまぁ、アレは、終わった事だし…。
「参ったねぇ」
横向きで頬杖をついていた多貴が、さっきまでのダルダルな雰囲気を感じさせない声で呟いた。
参ったって思う事か?
いや、もしかしたら何かあったのか。どうだろ。
転入生の席は反対のドア側で、四方から質問攻めを受けていた。
美形に敏感だからな、このクラス。
いやこの学校?地域?わっかんね、なんか面倒臭くなってきた。
「戻ったのかな」
「……二年で?」
「そんな複雑だったかぁ?」
伊織の一言に、俺と多貴が返す。
俺らだけが共有している過去に、当たり前だけど瀬戸は蚊帳の外だった。
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