素直の向け所‐01
その日の放課後、俺は生徒会室に呼び出された。言わずもがな会長にである。
しかも一人で来いという指令が直々に何故かメールで寄越された。
なぜアドレスを知っているのかという疑問だけど、蒼司の携帯から俺の番号と一緒に手に入れたに違いないと思えば納得した。納得していいのかはさておき。
生徒会室には相変わらず会長以外に役員はおらず、ソファに座って出された紅茶は会長が淹れたらしい。こわい。
しかしモノが良いので不味くはない。透明感ある赤茶色を口にしながらも、向かい側に座る黙っていれば完璧と呼べる生徒会長を見る。
彼此数分、ここに来てからずっと沈黙が続いている。
カップを置いて背凭れに体を預け、上履きを脱いでソファの上で胡座を作った。ここでこれをやるのは、俺と瀬戸と多貴くらいだろうなあ。
それくらい生徒会関連は生徒にとって雲の上と言われているほどの位置にいる。現実はただの生徒会室で備品が高価なだけで、確かに地位は高いだろうが俺からすれば高校の先輩で生徒会長というだけである。
生徒が使うものとして設置したんだ。ここは決して内閣総理大臣の部屋じゃない。
前屈みで膝に腕を置いたまま、自らの前にあるカップを見ている会長を眺めながら、とりあえずこの沈黙を破ろうと思った。
「さっさと用件を言ってくれませんかね」
「…お前は相変わらず態度が大きいな」
「会長があまりに腑抜けだからじゃないですかね」
「腑抜けではない。迷っているだけだ」
「腑抜け。優柔不断」
「増やすな」
「ヘタレ。腰抜け。下手くそ」
「最後おかしいだろ」
「って言いたくなるくらい会長が蒼司に対して弱すぎるせいです」
「……」
「今回の相談事はあれか、バレンタインか」
「……なぜ分かった」
「当たりかよ」
冗談で言ったんだけどまさか当たるとは思わなかった。
会長がバレンタインを意識してるなんて誰が考えるよ? しかも受け取る側じゃなく確実にこれは渡す側だ。
蒼司に渡したいのか。本命チョコあげたいのか。なんだこいつ。
「あげればいいじゃん、本命チョコ」
「何を言われるのか想像出来たから迷っている」
「なんて言われんの?」
「……『何のつもり、ふざけてんの?』」
「あー…」
会長と会ってからの蒼司なら有り得るから否定出来なかった。
そりゃあ迷うわな。
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