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───幼児の時からやれば出来ない事も無く理解も早く、学校に通うようになれば兄は学問でもそれを発揮した。親が期待するのも必然だった。それを当たり前にしてしまったからこそ、何をするにも兄が基準になる。
普通の子供なら難しい事だって、兄は出来るのに何故出来ないのかと。
育児放棄はなかった。ただ構われなかった。瀬戸を可愛がっていたのは専ら祖母で、瀬戸にとっての親は祖母。
「学校に行くようになって、俺は兄みたいに出来ないから状況は悪化していきました。それから高校に入る前に祖母が死んで、それまでの規制が無くなったみたいに両親は俺に独り暮しするよう言ってきました」
そして瀬戸はその要求を承諾した。
ただ、祖母という居場所が無くなってしまったというのもあるけれど、離れることが出来るならと。
学生で居る間は両親も仕送りをするが、学生で無くなればそれも止まるのだと言う。
「家を出る日に、正月も休暇中も帰らなくて良いからと言われました。ただ本当に必要な時だけで、連絡も無し、両親のどちらかが死んでも葬式に出る必要もない」
それは縁を切るのと変わらず、祖母が居なければ関わる事すら出来なくなる。
だから瀬戸は正月も実家に帰らないのかと納得する。
瀬戸は髪を散らすように撫でると、自嘲するように笑った。
「正仁さんと怜さんの子供に、諒に会うまで、俺は人付き合いも雑で浅く広くみたいに遊んで喧嘩して、グレてどうしようもねぇバカやってました」
「……瀬戸、」
でも、とそこで言葉を切った瀬戸は迷うように、いや、照れ臭そうにまた笑う。
その仕草や表情に俺は目を奪われる。
「見合うようになりてぇって思った。隣にいて、関わってて恥にならないヤツになりてぇって」
バカだ、と思った。
俺は今まで瀬戸と恋人になっても、出会うまでの事も出会ってからの事も殆ど何も知らない。
だけど、瀬戸を好きになって一緒に居たいと思って、知りたい事が増えて、そして今、瀬戸の一部をまた知った。
瀬戸にとって大したことがない話だとしても、俺にとっては大きな話だ。そしてまた好きになるのだ。
ひねくれようがグレようが、俺を好きになってくれて対等で居たいと恥になりたくないと思った瀬戸があまりに愛しくて、大きな手を強く握って、耐えきれずに泣いた。
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