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09
 


 体内の熱を冷ますように水を口にする。
 昼食が楽しみだね、という父さんの言葉に同意する母さん。二人とも楽しそうだなと見ていると、父さんが瀬戸に目を向ける。



「さて、落ち着いた事だから、和史君の話を聞かせてくれないかい?」
「あ、はい」



 また唐突だな。
 しかし瀬戸は瀬戸なりに話を纏めていたのか、驚く様子はなかった。

 出会ってから半年を越えてもうすぐ一年になる。長いようで短い時間は、たぶん今恋人という立場に居るからこそ思う流れ方なのかもしれない。



「とりあえず構成から説明しますが、両親と兄の四人で、兄とは7歳離れてます。
親は共働きで、兄は結婚して今は実家に居ません。俺も高校から独り暮ししてるのが現状です」



 お兄さんは夏樹さんの元カレだったこともあり、覚えていないが何度か会っている。俺からすれば以前顔を会わせたのが初対面に等しいけれど。家族構成の話も把握はしてた。
 ここから先の話は俺も知らない。

 瀬戸は少し黙ってからまた話し出す。



「簡単に言うと、俺は生まれてくるはずじゃなかった子供らしいです」



 考えても居なかった内容に驚きと言葉を理解した後に迫った悲しみが同時に襲ってきて、反射的に隣にいる瀬戸の手を掴んでしまった。
 瀬戸は驚いたものの、その手を握り返してくれて安堵する。



「生まれてくるはずじゃなかったとは?」
「…兄が産まれたのは両親の望みだったんですけど、一人で良かったみたいです。だけど兄が小学校に入ってから母が妊娠して、二人は中絶しようと話をしたらしいんですが、当時一緒に住んでいた母方の祖母に止められて仕方なく産んだって」



 母方の祖父は既に亡くなっていたが、祖父母は厳格な人たちで、自らの行為で授かった命を簡単に手放すなと言われた為、結果的に産むことになった。
 祖母は瀬戸が中学を卒業した直後に亡くなり、独り暮しの理由はそれもあるらしい。



「虐待とか、そういうのは無かったけど、兄のように構われる事も無ければ、俺に対する期待とかも無いんですよ」
「…というと?」
「兄はまあ、俗にいう秀才ってやつです」



 


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あきゅろす。
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