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08
 


「このタイミングで申し訳ない。けれども明日の昼頃には出なければならないし、少しでも和史君の事を知って明日は過ごしたいと思っているんだ。けれど、無理を強いる気持ちもないよ」



 揺らぐ湯気が風に流されていく。

 本当に優しさしかないその声で、しかし事実だけを父さんは言う。
 少し沈黙した瀬戸が躊躇いがちに口を開いた。



「…大した話しでもないですけど、雰囲気壊すんじゃねぇかって思うと、なんつうか、」



 このタイミングでは確かにそうだろうな。
 父さん達も無理強いはしないが、明日は夜まで居られない。だからこそ今日聞きたいと言った。俺も知りたいとは思うけれど急いではない。
 瀬戸のタイミングで良いと両親は言う。



「雰囲気などは気にしなくて大丈夫だよ。やはりそういった話には区切りというのは必要でね、こういう場であれば、それもしやすいと思ったんだ。美味しい昼食が出る前にというのも区切りのひとつさ」



 父さんが言っていることの意味も意図もわかった。
 それを瀬戸も理解し、少し悩んだあと「わかりました」と頷いた。

 なぜか俺が緊張してきて、熱いお湯を顔に掛けてから息を吐き出す。



「さて、じゃあ逆上せてしまうからそろそろ出ようか」
「そうね」



 先に入っていた母さんが先に上がり、そのあと少ししてから、暑くなった体を風が冷ましきる前にシャワーを浴びてから三人で脱衣所に入った。



「あちぃ…」
「良い湯だったね」
「日焼けしたみたいになってんだよなあ」



 みんな肩から下が赤くなっていて、体内からポカポカしてる。
 この温かさが心地好い。

 脱衣所を出て居間に戻る時トイレや簡易風呂以外に寝室らしき部屋を見つけて、客室の豪華さを改めて実感した。
 自然に囲まれているからこその清々しい匂いや空気に癒される。


 居間に入れば母さんが窓際の椅子に座って景色を眺めていた。その姿が本当に絵になるほどだ。



「体が温まって暑いくらいね」
「ああ、水でも飲もう」



 父さんは座椅子に母さんを促して、置いてあるコップに水を入れた。
 それを貰って飲みながらも、これから真面目な話があると分かってはいるのに旅館に来たなら浴衣姿も拝みたかったなと思ってしまうのは仕方ないはず。


 

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