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06
 


 けれどもしかし納得いかん。
 反論は出来ないが抗議したくて唸っていると、各自の前に湯飲みを置いた母さんが微笑みながら言った。



「私が先に入って湯船に浸かるからそんなに気にしなくて大丈夫よ」
「いやいやいや…」
「大丈夫なのは見れば分かるわ。さて、じゃあ私は先に入るわね正仁さん」
「ああ、しばらくしたら行くよ」



 見れば分かるって……。
 結局言い包められて母さんは先に浴室へ行ってしまった。
 ちらと瀬戸を見れば、眉間にシワを寄せていてかなり悩んでいるというか困っているというか、どうしたらいいか分からないらしい。
 諦めるしかないか。なんかもう両親には勝てる気がしない。



「そんな大っぴらに晒すつもりはないから大丈夫さ。困らせてすまないけれど、どうしても皆で入りたかったんだ」
「父さん…」



 本当に申し訳ないという表情だから拒絶出来ない。
 俺はもう両親だからっていう妥協があって諦めも早いが、瀬戸は違う。だからこその反抗だったわけだが。



「瀬戸は無理しなくていいからな」
「そうだね、まだ慣れないし…」
「いや、別に、大丈夫です。俺だけ入らないのも何か気ぃ使うし」
「そうか、ありがとう和史くん」




 じゃあそろそろ行こうか、と立ち上がった父さんに続いて、露天風呂のある浴室へと向かう。
 居間を出て廊下を渡ると、突き当たりに浴室がある。
 脱衣所に曇りガラスの扉の向こうがそうらしく、日当たりが良くて景色も良さそうだ。

 脱衣所には棚に篭が4つ、鏡台に洗面器、ドライヤーや備品も充実している。
 さっさと服を脱いで腰にタオルを巻き付けながらふと父さんに目を向けた。



「……相変わらず絞まってんな」
「諒は相変わらず筋肉付かないね」
「遺伝子とは…」
「まあ諒の体質は母さんの遺伝だからね。和史くんは良い体つきをしているね、鍛えているのかい?」
「たまに、ストレス解消で」
「理不尽だー…」
「甘いもんあんだけ食っててその体ならお前も充分理不尽だろ」
「うっせーバカー」
「ふふ、二人とも楽しそうで嬉しいよ」



 色々流された気がしなくもない。二人とも程よく絞まっていてバランスが良い。くそ羨ましい。

 浴室のドアを開くと、硫黄の匂いが鼻を刺激した。
 冷たい風が肺に流れて寒い。
 広々とした木製の湯船から湯気が立ち上っていて、母さんの背中が見えた。

 そして湯船の中には、濁り湯。
 見れば分かるか、成る程な。

 


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