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03
 


 翌1月2日。
 まだ重たさが残る瞼を瞬かせ、窓の向こう側で流れていく景色を見てからまた目を閉じた。
 起床時間は6時、現在7時半である。
 隣の瀬戸は寝ていて肩に頭が乗り、その上に自分の頭を乗せた。



「───なんて愛くるしいの…寝顔の写真撮ろうかしら」
「ああ、音がないアプリがあっただろう」
「ええあるわ。アルバムが更に華やかになるわね」
「まったく愛くるしくて仕方ないね」
「まさに至宝だわ」
「起こさないように撮りなさい」
「はーい」



 二人は小声だがこの距離だからばっちり聞こえてるんだよな。
 静かな後部座席と、運転中の父さんと助手席の母さんとの温度差は、まるで冬と夏である。
 今朝起きた時には既に二人とも準備万端で、コーヒーを飲みながら楽しそうに会話をしていた。
 どんだけ楽しみなんだよと心のなかで突っ込みながらも、子供のような両親にただ呆れて笑うしかなかった。


 パーキングエリアで休憩を取り、再び車を走らせて目的地に到着したのは8時半過ぎ。
 車内から見えてはいたけれど、外に出てみれば周りは木々で溢れ、都会の喧騒など知らないかのように静かだ。
 やっぱり1月だからそれなりに寒いけれど、目の前に建つ古風な旅館は雪に覆われた真っ白な山や空の青さと一体化しているような感覚になる。寒いからこその最良がそこにはあった。



「───お疲れさま、ありがとう正仁さん」
「父さんおつかれ」
「お疲れさまです」
「ありがとう三人とも。さて行こうか」



 微笑みながら歩き出す父さんに続きながら、視界に入る山の白と空の青と建物の茶という単純な色が感慨を深くさせる。

 父さんが木製の引き戸を開けると、暖かな空気が肌に当たって木の匂いが鼻を刺激した。
 いらっしゃいませ、という従業員の声を聞きつつ内部を見回すと、掛け軸や生け花など和風の装いが馴染んで懐かしいような落ち着くような気持ちが滲む。



「予約した仁科です。清司さんは?」
「はい、お待ちしておりました。ただいま参りますので、お待ちの間にこちらの───」



 聞き慣れない名前にカウンターに目を向ける。
 清司さんって人が、顔馴染みなのか。
 会ったことがあるって言われたけれど、名前を聞いても思い出せない。
 そんなモヤモヤした気持ちでいると、パタパタと足音が聞こえる。
 向かって来たのは、思わず目を見張るくらいに屈強な強面の男性だった。


 


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あきゅろす。
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