02
父さん曰く、顔馴染みというのはまだ両親が海外での仕事が入る前まで。海外出張が増えてからは会えてはいなかったものの連絡は取っていたらしく、一ヶ月ほど前に日帰りで利用したいと連絡をしたら二つ返事で了承してくれたようだ。
俺が幼い頃に何度か会っているらしいけど、年齢が一桁の時の事なんて殆ど覚えてない。
「海外に行くようになってからは連れていけなかったし、向こうも久しぶりに諒に会いたいって言っていたよ」
「…なんか覚えてないのが心苦しい」
「大丈夫よ、個性的な人だから会えば思い出すわ」
個性的な人って。
そもそも両親が個性的なんだが。いや、だからこそなのか。類は友を呼ぶのか。
とにかく、前々から温泉に行く予定を立てていて準備万端なら問題ない。
明日のために今日は夜更かししないで早く寝よう、と両親は言う。
毎年何かと話し込んだり遊んでいたりと寝るのが遅くなるからな。
頭の中は忙しかったが、夕食と風呂を済ませて準備をすると楽しみな気持ちが大きくなっていった。
日帰りだから普段出掛ける程度の荷物だし車だから焦る事も悩む事もなく、のんびりと四人で雑談してからそれぞれの寝室へと入る。
「温泉久々だなあ」
「そうだな」
至近距離で向かい合い見上げた先にはぼんやりとでも確かな愛しい存在がいる。
昨日は引っ張りこまれたけど、正直かなり寝心地が良かったので何の会話もなく自然と同じ布団に入ったが、当然のように抱き寄せられてついニヤけてしまった。
一挙一動ではないけれど、瀬戸の仕草や言動は俺をドキドキさせるし好きだと思わせるものだ。
だから俺も瀬戸を同じような気持ちにさせたい。慣れて刺激が無くなってしまわないように色々仕掛けて行こう、と心に決めて、暖かく安定感のある体の胸元に額を寄せて目を閉じた。
いつか、二人だけで温泉旅行したいな。
喧噪から離れて、穏やかな時間を味わって確かめたい。夢でも想像でもなく、ここにある幸せは本物なのだと。何度だって確かめたい。
思い出を、記憶を共有して一緒に懐かしんでその数を増やして行きたい。
想像する未来は実現出来る。自分がそこに向かって形を作って行けるなら、それは確かに触れられる現実なのだ。
[*][#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!