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08
 


「いつでも家に帰ってきていいし、むしろ住んだらいい。うん、そうだね、高校を卒業したらここで同棲も悪くない。帰国して息子が二人出迎えてくれるなんて幸せじゃないか。なあ怜」
「ええ、もちろんよ正仁さん。とりあえずもう今日から三日間は息子たちと四人でダブルデートなんて素敵じゃない?」
「いい案だ、流石だよ怜。やはり君は素晴らしい」
「やだわ正仁さんの方が素敵」


「……状況が理解出来ねぇんだけど」
「……ちょっと俺も説明出来ない」



 唐突に二人の世界に入り込む両親には慣れたが、まさか瀬戸を巻き込むとは思わなかった。
 結果としては最良ではある。けれど何だか方向がおかしい。



「じゃあ和史くん、今からとりあえず三日間分の荷物を移動させようか」
「ちょっと待って説明して」



 じゃあってなんだよ、とため息を吐くと、父さんは俺の言葉に疑問があるのか「なにがおかしいのだろうか」と言わんばかりに目を瞬かせている。
 その隣でお茶を飲んでいた母さんが、瀬戸を見て言った。



「私達が過ごす三日間、和史くんも一緒にいてほしいの。幸せそうな諒を見たいのもあるけれど、和史くんの幸せな顔も見たいのよ」
「……母さん」
「和史くんの家庭事情は追々聞かせてもらいたいのだけど、構わないかな?」
「…はい。大した話ではないんですけど」
「大丈夫さ。それに敬語は禁止だよ?私たちはもう、君も息子だと思っているからね」



 父さんの言葉に、瀬戸はそれが本気であると理解したのか目を見張り、それからはにかむように笑った。

 瀬戸のはにかみとか。



「なにそれ可愛い…」
「…っ、見んな」
「もう諒ちゃんってばイイ男捕まえたわね!私に似て人を見る目があるわ。本当に可愛い」
「ああ、とても可愛らしい笑顔をありがとう」
「……やめてください」



 それから少しだけ話をして、瀬戸の着替えや必要な小物などを持ってくるため、父さんが車を出してくれるらしく「二人でちょっくら行ってくるね」と戸惑う瀬戸を連れて父さん達は家を出た。

 母さんは嬉しそうな父さんを見て「よかったね」と俺の髪を梳くように撫でてから、笑顔のまま言った。



「二人が戻ってきたら、二度目で悪いけれど一緒に初詣に行ってくれる?」
「もちろん」



 こんな甘くて幸せな世界があっていいんだろうか。
 けれど、不安はなかった。幸せだとそれを噛み締められたら、確かにそれが存在する最大の幸福なのだと。


 

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あきゅろす。
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