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07
 


 父さんも母さんも曲者だとは思っていたが、母さんの方が上なのかもしれない。



「反対なんてするわけないじゃないの!元旦からこんっなにめでたいことはないわ、可愛い可愛い諒ちゃんと和史くんが恋人だなんて…、やっぱり願掛けが効いたのね正仁さん!」
「が、願掛け?」



 さっきまでの泣きそうな表情は消え、見慣れた可愛らしい笑顔を振り撒く母さんは俺の言葉に嬉しそうに頷いた。



「今の仕事先の近くに、恋愛成就で有名な神殿があってね、そこで願掛けしてきたの。二人が上手くいきますようにって!」
「え、ちょ、何それ聞いてない!」



 語尾に星が付くような言葉に次いで拳を握った母さんに勢いで立ち上がると、父さんは「まあ落ち着きなさい」と穏やかに笑って言った。
 座り直し、母さんに問い質そうと身を乗り出した。



「どういうこと」
「言った通りさ。そもそも私たちは諒に世の中の常識に囚われ過ぎてほしくないんだ。綺麗事ではあるけれど、好きになる人間の規定はない。大罪と呼ばれていたのも昔の話だ。…まあそんな大きな話ではないが、二人に本当の愛があるという事実があれば、私たちは受け入れる。それが和史くんだったらいいなっていう話から願掛けに至ったんだけれどね」
「いや流れがおかしいだろ」



 そうかい?と小首をかしげた父さんは、しかしその目の温もりや溢れんばかりの愛情に言葉が詰まる。

 本当の愛とかよく分からないし父さんじゃなければイタくて恥ずかし過ぎるセリフだけれど、様になっているのは流石だ。
 ただ言えることはある。



「言葉が足りないんだけど、心の底から好きだって、好きとか大好きとかそれくらいじゃ表せないくらいの気持ちがあるのは確かだ」
「ああ」



 俺の拙い言葉に瀬戸が頷いてくれた、それだけで嬉しくなる。
 いつの間にか妙な圧力はなくなっていて、交際報告前と変わらない空気に戻っている。

 なんか、変な感じだなぁ。



「それじゃあ、和史くん」
「はい」



 にっこりと笑う父さんを戸惑い気味に見る瀬戸は、あまり状況についていけていないようだ。
 そして父さんは言った。



「今日から私たちは和史くんにとって両親と同じ。これからは遠慮なく父さん母さんと呼んでおくれ」
「……はい?」



 心底混乱した瀬戸の反応は、今までで一番可愛いと思ってしまった。


 


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あきゅろす。
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