06
「───自分の気持ちがはっきりしたのは修学旅行の前で、正直最初は戸惑いがあったけど、好きだと思ったらそれしか納得できる答えが見当たらなかった」
「……修学旅行の、前…」
思わず呟くと、ちらとこっちを見た瀬戸が少しだけ苦笑いを浮かべて「あの時は悪かった」と言った。
修学旅行の話からあの時と言えば、小さな衝突があった事しか浮かばない。
「余裕なくて嫉妬した」
「し…っ、嫉妬…」
あの時よく分からなかった言葉は、嫉妬したから出たものだったのか。
女子に告白されて、タイミング悪く蒼司が現れて、結局うやむやなまま終わった出来事だったけれど、やっと理解した。
修学旅行の話から、か。
そこでふと浮かんだのは、夏祭りの衝撃だった。
「……え、と、じゃあ、夏祭りの時の、あれって」
「あー…、なんつーか、空気にのまれたっつーか……わりぃ」
「いや、謝らなくていいから!未遂だし」
「変な言い方すんな」
「あ、ごめん」
困ったように眉を寄せる瀬戸が強面なくせに可愛く見えて、慌てて謝ると横から吹き出すような笑い声がして、顔を前に戻すと両親がクスクスと笑っていた。
は、話の途中だったのに何してんだ俺!
「ごめん、話遮って」
「…すみません」
「いや構わないよ。色々とあったみたいだけど、二人とも楽しそうだね」
「…ねえ、正仁さん」
「なんだい、怜?」
今まで珍事レベルで静かだった母さんが、静かに挙手をした。……挙手?
なんで、と思った瞬間である。
勢いよく降り下ろされた手が、バンッ、とテーブルを叩きつけて反射的に体が強張った。まさか母さんがそんなことをするとは微塵も思っていなかったからだ。案の定瀬戸も目を丸くしている。
母さんがキレた!?、と混乱が頭を埋め尽くしていく。
母さんは俯いたまま立ち上がっていて、父さんは「やれやれ」と呆れたような苦笑いと何だかおかしな光景が目の前にある。
ゆらりと顔を上げた母さんの表情は───
「もう我慢の限界!不安と緊張でいっぱいの顔も雰囲気も可愛いけれど、やっぱり笑顔が一番可愛いのよ!真面目にしてみたけれどやっぱりこんなの、私には無理だわ!可哀想になってきちゃった…っ」
そう叫んで泣きそうになっていた。
我が親ながらさっぱり理解できない。
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