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05
 


 ───駅前には初詣の行き帰りで深夜にも関わらず人が溢れている。
 あんな目立つ駅前に今は立ちたくなかったし、新年早々視線に晒されるのは勘弁だ。待ち合わせ場所を人通りの少ない駐車場にしておいて正解だった。



「───来た来た。こっちー」



 駐車場に着くとブロックの上に多貴が座っていて、手を振るそれに返す。



「おまたせ、伊織は?」



 一緒に居るはずの片割れの姿が見えずに聞くと、「そこ」と多貴が近くの自販機を指した。
 見覚えのある後ろ姿を確認して頷くと、立ち上がった多貴が何故かニヤニヤしている。



「なに」
「いーや?お二人さんの雰囲気が違うなあとね」
「は?」



 首をかしげながら言われた言葉に思わず後ろで黙っている瀬戸を見ると、むすりとしていた。眉間にシワを寄せる顔は怖いけど、怒っているっていうか不貞腐れている。
 なにそれ可愛…じゃなかった。

 なにも言えずにいると飲み物を持った伊織が戻ってきて、俺と瀬戸を見比べるように目を動かしてから柔らかく笑う。



「うまくいった?」
「ファ!?」
「……」



 全て分かってますよ、というような言葉に唖然として、思い出されるさっきまでのやりとりにまた熱が上がるのが分かった。







*






 ───年明けを知らせる鐘が鳴った時、そのタイミングに二人で笑ってしまった。
 瀬戸が深く息を吐いたのに気付いて顔を上げると、不貞腐れたような顔で首をかしげてしまったが、吐き出された言葉に目を見開いた。



「で、うれしいだけかよ」



 言われるとは思っていなかった言葉に、その求められている意味を理解して一気に羞恥が駆け巡る。



「あ、う…」
「口が魚みてぇ」
「…うっさいバカ」
「好きだから、」
「っ、」
「俺のモンになれよ」



 強い意思と強引な言葉に、しかし優しい声で真っ直ぐな目に射抜かれる。目を合わせていられずに反らして、空気の甘さに酔っ払いそうになった。
 すっと冷えた空気を吸い込んで口を開く。吐いた息は白い。



「……いい」
「あ?」
「良い、…許す」
「な、に様だコラ」



 頬をつねられたが痛みはない。
 ちらと目をやると、予想外にも二度見してしまうくらいの衝撃がそこにあった。



「……顔、あか」
「お前もだ、アホ」



 こんな暗いのに分かるくらい二人して顔が赤いとか。


 


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あきゅろす。
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