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05
 


 誰かと遊ぶこと、誰かと一緒に賑やかにご飯を食べること、そんな、俺が当たり前にやって来た事が瀬戸には戸惑いを抱かせるほど不馴れなもの。
 いつだか気になったのは瀬戸が過ごしてきたそれまでの日常で、それらを知りたくなったのはつい最近だ。

 踏み込んでいいのか分からない。
 苦笑いをする瀬戸を見ることしか出来ずに、言葉が出てこない。



「なんだよ、んな顔して」
「……どんな顔してる?」
「……」



 微かに寄った眉間に笑う。
 困らせたか、とヤカンを温めていた火を消して急須に注ぐ。

 ふと、視界に影が出来て顔を上げた瞬間に息が詰まった。
 急須のすぐそばに瀬戸の手があるのにそこで初めて気付く。



「手ぇあぶねえよ、」
「寂しそうな顔してた」
「…っ」



 近距離で聞こえる囁くような声に、置いてある大きな手から目が離せなくなる。

 近い、と思った。
 今までこの距離感で多貴や伊織、夏樹さんと接してきたのに、意識すると途端にその距離が近すぎることに気付く。
 ヤカンを持った手に力が入らなくなってガス台の上に戻した。賑わいが遠くに聞こえる。

 幼馴染みや従姉で慣れていたはずのこの距離に瀬戸がいると、落ち着かない。
 それは確かに俺が瀬戸を好きだからで、勘違いしそうになるその言動に酷く戸惑う。
 好かれてない事はない。それは今まで一人で過ごしてきた瀬戸が馴れ合いを好まない事を知っていて、それでも長くなくても一緒に過ごしてきた期間がそれを確信にしてきた。
 でも、それは俺とは違う好意だ。
 俺が瀬戸を好きになる前に抱いていた友情の好意だ。
 だけど。



「…知りたいと思ったんだよ」
「……なにが」
「お前が今までどんな風に生きてきたのか、知りたくなったんだよ。こういうことに慣れてないなら、楽しいっていう気持ちを共有したい」
「……お前さ、」



 中途半端に止まった声に顔を上げると、不機嫌そうに見える表情をしていた。今では分かるけど、実際は困っている。
 まあ突然こんなこと言えば困るよなと納得していたら、急に頬をつねられた。



「いはい。なんれ」
「ムカつく」
「あぁ?」
「ムカつく。お前自分がなに言ったか思い出せよ恥ずかしくねーのかよバカか。……あー、くそ、おい!テメェらこっち見んな!」
「ファ!?」



 早口になにか言われたと思えば、急に瀬戸がリビングに向かって叫んだのでついリビングに目を向けたら、愉快そうに目を細める五人が目に入って、一瞬頭が真っ白になった。



 

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