03
なぜ幸丸のライトグリーン携帯から、いつかの体育祭で聞いた鈴木くんの声が聞こえるのか。しかも必死。
おかえり、とこの場に似合わぬ穏やかな笑顔で言った伊織に返事をしつつ、何でこうなったのか聞いてみた。
曰く、勉強はしていたが俺が下に行ったすぐ後に幸丸の携帯に鈴木くんから電話が来たらしく、一度桜井ちゃんの携帯に掛けたけど出ないからと幸丸に掛けたのだとか。
幸丸がスピーカーにして、最初は穏やかだった会話が、俺の実家で勉強会をしていると桜井ちゃんが言ったら、鈴木くんが発狂したらしい。何でだよ。
その騒がしさ(弄られそうな空気だったから)逃げるために下に来たのだと、瀬戸が呆れながら言った。
で、鈴木くんは鈴木くんで、同じ委員会の委員長である先輩に勉強を教えてもらってるけど、どうやら酷くこっちに来たがってるものの、煩くなるから嫌だと桜井ちゃんが断固拒否してるのが今の状況らしい。
確かにこれが電話じゃなかったらどうなるのかと苦笑いした。体育祭のあのテンションのイメージしかないからなあ。
そんなことを考えていると、鈴木くんとの会話が変な方向に行っていた。
『仲間の、危機を、助けてえええッ』
「え?貞操の?」
『ある意味間違いではないが!心のっ心の貞操が!危うちょまって先輩おかしいその手付きなにちょっと煽られてんじゃねええええ』
「流うっさい」
『それイワちゃんにも言われたでござる……』
「電話したんだ」
『さっきねー…、電話来たんだよ。試験前勉強なんて趣味に比べたら天地の差よってドヤ声で言われた』
「さすがイワちゃん揺るぎない」
二人の言うイワちゃんとは誰なのか分からないけれど、きっと類は友を呼ぶような人なんだろうなあ、と思う。
伊織と多貴と瀬戸と幸丸とでよく分からない会話を聞き流しながらお茶を飲む。
いやはや、楽しそうだな。
「菅原せんぱーい、流との時間をお楽しみあれー」
『当たり前だ』
『当たり前だって普通に答えないでよ先輩……、』
「声が近いね抱っこされてんの?」
『し…っ……されてますぅぅああぁぁ』
「ふぁいとー」
『はくじょーものおおお』
抱っこて。
あの体育祭での無言の鋭い突っ込みをしていた先輩と鈴木くんはそういう感じなのか。バイオレンスだな。
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