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05
 


「会長はもう答えを見つけたんだろ」



 自分が蒼司に対して抱いているのがどんな感情なのか。
 会長はデスクチェアの背凭れに体重をかけると、天井を見上げて溜め息を吐いた。

 ……しっかし、よく見ると、ホントに顔は良いんだよな。黙っていれば。



「見つけた所で、今更どう接すればいいんだ」
「へたれめ」
「あ?」



 へたれ発言でこちらを見た会長だが、ちょっと気まずいのか迫力がない。今更か。



「その身ひとつでぶち当たれ。不器用な会長は考えると余計なことしかしない。本音で、遠回しなんかなしで、照れたってそれを隠さずに突っ込んで行けよ」
「馬鹿にしてんのか応援してんのかどっちだ」
「どっちも」
「おい」



 可笑しくなって笑うと会長は呆れたような諦めたような顔をした。
 冷めた印象があったけど、その時はなんていうか、感動的というか感情がよく分かるようなそんな印象があった。



「とにかく、適度に分かりやすく動けばいいんだよ。気付いてほしいなら自分が動くしかないだろ。このままだったら何も変わらない」



 蒼司だって、気にしてるんだ。
 あえてそれは言わないが、会長なら不器用なりに動くんだろうと思う。


 俺もあんまり、会長にとやかく言える立場じゃないけど俺の事は今は関係ないし、この不器用な二人になんとかなってもらわないと、いつまでも俺が巻き込まれる。主に会長によって。
 それはちょっと勘弁願いたい。



「つか、なんで俺にそんなこと言ったんだ」
「は?」
「恋愛相談」
「……お前しかいないからだ」
「他の役員は」
「からかわれて終わる」
「他に誰か相談出来るひとは?」
「いない」
「アンタさ……」
「自分が一番よく分かってる。それ以上は言うな」
「……」



 他の役員にからかわれるって、どんな人達なんだか。
 だからここには会長しか居なかったわけね、聞かれてからかわれたくないから。
 結構繊細なのか。似合わねぇ。



「まあいいや。じゃ、もう行くから」



 巾着とお茶を取って立ち上がり、重い扉を開く。
 何やってんだ俺は、と心中呆れながら廊下へ足を踏み出した時、会長の声が聞こえて振り返った。

 扉はゆっくりと閉まっていく。



「ありがとう、悪かったな。諒」
「───…」



 バタン、と目の前で扉が閉まる。

 今まで聞いたことのない柔らかさのある声に、予想外の言葉。そして、微笑んでいたように見えた会長の表情に体が動かなかった。

 しばらくしてチャイムの音で我に返り、足早に教室へと戻る途中、ふと思い出した。



「……なんで下の名前で呼んだ…?」



 フルネームかお前呼ばわりだったはずなのに、あの時、確かに諒と言われた。
 フルで呼んだが聞き取れてなかったとか?



「…え、なにあれ。不気味。」



 ぞわりと嫌な感覚がして、なんか変な懐かれかたをしたような気がした。
 よし、気のせいにしよう。


 


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