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05
 


 なんだかんだあったけど、夕食は楽しく過ごして遅い時間になる前に三人が帰った後、テーブルを拭く夏樹さんを見ながらもいつもより多い皿を洗う。

 玄関で夏樹さんと三人を見送って扉が閉まった直後、目敏く俺の気持ちを察した夏樹さんに瀬戸に対する事を立ったまま話した。
 それからとりあえず片付けしようと、今に至るが。



「───…そっかー、諒はあの子が好きなんだ」



 布巾を手にキッチンに入ってきた夏樹さんから布巾を受け取り、先に洗う。



「……ごめん」
「なんで謝るのさ」



 夏樹さんは流しの端に寄り掛かって笑う。
 水が止めどなく流れるのを見ながらも、手が動かなくなる。水が勿体ないな、と思ってもそのまま。



「だって、あの人は、」



 だって、あいつの兄貴は昔夏樹さんと付き合ってて、夏樹さんが酷く不安定になった理由でもある事を知っている。
 目の前で見た夏樹さんは、今では考えられないくらいいつも暗い目をしていて、家から出られなくなって、毎日怯えて、いつ自殺してしまうか分からないようなそんな状態だった。
 そんな状態になった理由の弟が好きだなんて。



「なんであいつが関係するのよ」



 おどけたような声に夏樹さんを見ると、意味が分からないという表情。
 気持ちに関して関係はなくても、やっぱり肉親で、男同士なんてのも無関係ではないと思う。


 でも、と溢れた呟きに、夏樹さんは穏やかな笑みを見せた。



「いいじゃん」
「……え、」



 その笑みに、嘘も軽蔑も偏見も見えない。俺の見る限りではだけど。



「あたしは良いと思うけどな。あいつが兄だからなんて理由で諦めるなんて勿体ない。それに、前にあの二人にも言ったけど好きになったのは同じ人間で、同性に恋愛感情持っちゃいけません、なんて誰が決めたのよ」



 多貴と伊織に対しても、夏樹さんは確かに同じことを言った。
 確かに諦める理由にはならないけど。
 ぐっと眉が寄る。



「あたしはあいつが好きじゃない。でもそれは和史くんには関係ない。諒が誰を好きになろうがあたしは文句なんて言わないよ。まあ、ヤバそうなやつに恋されたら考えるけど」
「いや、しねーよ」
「知ってる」



 にっかりと子供っぽく笑う夏樹さんの目に、今までの影が無くなっていることに気づいた。


 ───そっか。あの時、宗也さんと会話したことで、夏樹さんの中の「あの頃」がただの思い出になったんだ。



 


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