05
「ってなわけで、ハイ!ケーキでも食って、気分入れ替え!」
ぐるぐると自己嫌悪で泣きそうになっていると、ぱちんと手を合わせる音がして次に明るい声がした。
にこりと笑う睦月さんに、俺は涙を堪えて笑いながら返事をした。
「………お前、」
「話しはあとー」
何か言いたそうな泉さんに、はい邪魔ー、とか言いながらどかして、泉さんが立っていた場所の冷蔵庫から何かを取り出した。
それが視界に入った瞬間、ふわりと思考が切り替わる。我ながら単純。
「わ!可愛い!うまそうっ」
現れたのは丸型ワッフルにカスタードクリームと生クリーム、数種類のカットフルーツがまた二種のクリームと同じ形のワッフルに挟まれていて、粉砂糖がまぶされホイップクリームがちょこんと乗っかり、その上に苺と桜桃のカットしたやつとミントが飾られた、なんとも女性に人気が出そうなケーキだ。
紅茶を淹れ直してくれて、目の前にカップとケーキが乗った皿が置かれた。
あまりの可愛さに視線はケーキ一直線で首が一緒に動く。
「………ワッフル、好きです」
「そりゃよかった。どーぞ」
唾液を飲み込んで頷くと、そろそろとフォークを取る。
じっくりケーキを四方八方から眺め、手を合わせて「いただきます!」と言うと睦月さんが頷いたのでケーキにフォークを入れる。
じゅわりと広がるバターとほんのりと漂う蜂蜜の風味。甘さ控えめの二種類のクリームとフルーツが、しつこそうに見えて意外と口の中はさっぱり。
フルーツに柑橘系があるだけでも随分違ってくる。
ああ、しあわせ。
「………、……んん…いははへふ」
目を閉じて味わいながら思わず声が出ると、微かに笑っているような気がした。
「今日は突然相談しちゃって、すんませんした」
「よいよーたいしたことしてないし」
レジ前で紅茶代だけ清算してから少し立ち話。相変わらずありがたい。
「いや、マジで助かりました。ありがとうございます!」
「どーいたましてー」
「あと、ケーキご馳走様です!」
「美味しそうに食べてくれてありがとーございますー」
「…えへへ」
あんな美味しいケーキ、ここでしか食べられない。
それをタダでなんて優しすぎるでしょ。
また来ます、と睦月さんと泉さんに手を振って店を出た。
夕方過ぎてもうすぐ夜になる。
ちょっとすっきりして幸せだけど、新たな悩みが増えたような気がした。
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