甘い香りの相談所。‐01
放課後、幸丸と桜井ちゃんが部活に行くのを見送ってから正門前で瀬戸と別れ、三人で帰宅するつもりだったけど、用があると言って幼馴染み二人とは別の道を歩く。
前から決まってた用事なんかない。
ただふと思い出して、考えたくて、咄嗟に出た言葉だった。
嘘ではないけど、なんていうか、そろそろ本当に自分と向き合わないとダメかもしれないと思ったから。
昨日も今日も、この先いつまでも同じことで悩んで周りに心配かけるくらいなら、いい加減にというか。
───なんでか、ドキドキする。
よく分かんねぇけど、なぜかアイツ、瀬戸の目を見たり目が合ったりするとドキッとしてすぐ反らしたくなる。
普段目を合わせたら反らさない自分が、見続ける事が出来なくなる。
ふとした仕草も、声も、いちいちドキドキするから、コイツの正体が何なのか俺は知らないフリをした。
フリっていうか、知りたくないというよりは認められないというか。
その感覚の正体とか、つい目で追ってたりとか、急に突進して抱き付きたくなる衝動とか(背中を見てるとウズウズする時がある)、本当は心のどっかでその正体を認められずにいるのは、自分の中でまだ蒼司との事が何か引っ掛かってんじゃないかって、そう思ってた。
罪悪感とは少し違うけど、まったく違うわけでもないような。
だから、つい思い出した場所に来てしまった。
話をしてどう思われるかは分からないけど、でも、彼なら答えをくれる気がしたから。
どっかで分かってるくせに、何が引っ掛かってて、何が引き留めてくるのか。
知りたくなくて、でもやっぱりそのままでは嫌だから。
見慣れた人通りの少ない道にある、小さくてもどこか存在感のある店を視界に捉えて、少しだけ緊張してきた。
「…つか、居るのかな」
来る度に必ず居る人は、今日は居るんだろうか。
なぜかとても、あの人に聞いてほしいと思ったんだ。
そっと、甘い香りを漂わせる店の扉を開ける。
「───お、いらっしゃい」
ひょこりと顔を覗かせると、毎回変わらない柔らかい雰囲気を纏った人が、見慣れた笑顔で迎えてくれた。
緊張する。
でも、たぶん、大丈夫。
そう思ったら、笑顔を返せた。
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