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沸き上がる。‐01
 


 やっぱ先輩は掴み所ないなぁ、何考えてんのかよく分からん。
 後ろ姿まで美形臭を漂わせる先輩を見送り、呆けた顔の瀬戸に声をかけると、あからさまに肩が揺れて思わず笑った。



「ありがとな、瀬戸」
「……は?」
「探してくれて」



 そう言って笑うと、瀬戸は少しだけ目を見開いて、ふ、と笑った。



「……よかった」
「ん?」



 ぽつりと溢れた言葉は聞き取れなかったが、安心してるみたいだから良いか、と追求はしない。
 じゃあ、まあ怖いけど戻るか、と意を決して足を前に出した瞬間、ぐっと腕が掴まれてそのまま引き寄せられた。

 予想外のそれに理解が追い付いたのは、装飾が多い軍服の肩越しに廊下が見えた時だった。


 ───…あれ、なにこれ。


 思うと同時に、肩に回った腕に力が込められる。頬に当たるウィッグの長い黒髪がくすぐったい。
 いや、違う。



「な、ッ、なに、して…っ」
「……」



 なんで瀬戸に抱き締められてんの。
 無意識にわき腹あたりの軍服を掴んでいるのに気づいて、けれど離すことが出来ずに瀬戸を呼ぶと更に力がこもる。
 抱き締められている、と認識した瞬間から動悸というか羞恥というか、とにかく心臓がうるさくて、混乱してる。



「瀬戸…?」
「……、…心配した」
「ッ……ごめん、」



 耳元からダイレクトに送られてきた低い掠れた声に、息が止まりそうになった。
 なんだこれ。意味が分からない。

 すり、と首筋に鼻が擦られて、体に力が入る。くすぐったい、というか、なにしてんだこいつ。
 恥ずかしい、のに、それよりも上回る何かが怖くて、掴んだままの服を引っ張る。



「せ、と…ッ、ちょ、」
「もうちょっと」
「は…!?、いや、何でだよっ」
「……」



 何でだって聞いても答えはなく、ただ首筋に掛かる息にぞわりと走るなにか。気付きたくないなにか。
 ぐ、と強く締め付けられ、ゆっくりと離れていく。
 体の間に流れる風に、熱が集まった顔を撫でられ、俯く。顔が上げられない。



「……悪い。戻るか」
「……ん、」



 俯いたまま手を引かれ、その熱さにまたぎゅっと鳩尾が引きつる。
 早い鼓動が聞こえてきそうな自分のそれが、いつかの夏祭りを思い出させた。


 ……思い出すなよ…!



 嫌でも流れてくるのは至近距離で見た捕食者のような目。息が交わるその近さで、あの時あのまま携帯がならなかったらと考えたその先が、あまりにリアルで。
 握られた手に、力が入る。
 一瞬強張ったその手は、応えるように強く捕まれて。


 何やってんだ、俺は。


 女装したまま、軍人と手を繋いでって端からみたら異様だ。
 でも俺は、その時ばかりは長いウィッグでよかったと安堵した。今もなお赤いままだろう顔が隠れるから。



 ざわめきが近づくと、少しだけ顔を上げて周りを見る。
 そこで瀬戸が向かっている方向が教室ではないことに気付いて、広い背中に目を向けた。
 揺れる長い黒髪。
 後ろ姿だけだったら瀬戸だって分からないかもな、とぼんやり思う。



 手を引かれるまま、瀬戸が立ち止まったのはクラスではなくて保健室だった。
 んん?なんで保健室?
 首をかしげていると瀬戸はそのまま保健室に入って、引かれて足を踏み入れた瞬間、聞き慣れた声が耳に入ってきた。


 


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あきゅろす。
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