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02
 


 相変わらず甘い色だな、とか。
 その手に引き摺ってるのは何だ、とか。
 隣にいる男前は誰、とか。
 色々突っ込みたい所があるが。


 長いピンクの髪を揺らして口から飴の棒を突き出して転がすその人は、心底愉快そうに、笑った。



「やっほー、いつから女の子になったの?」
「ッ、不可抗力です!」



 あんたもそれ言うのかよ!と勢いに任せて突っ込んだ。
 ふはは、と笑う彼は、ずるずると引き摺ってる人と思しき誰かを隣の男前に任せ、ゆっくりとした動作で目の前にしゃがみこんだ。
 甘い、飴の香りを纏わせて。



「なんで居るのって顔してるねぇ、諒くん」
「そりゃ、まあ…、だって、」
「それはまあ後々ね。とりあえず、助けにきたよ」
「…え、」
「え?監禁されてたんでしょ?アレに」



 そう言って親指の先が向けた方を見ると、男前の手に襟を捕まれた後ろ姿しか見えない動かない人。あれ、気絶してるよな。



「いやー、まさか諒くんが女装してるとは思わなかったよ。ふっつーに女の子じゃん、可愛いね」
「……嬉しくねー…」
「ぶっは。まあ諒くんは男らしいからね、」
「どういう意味っすか」
「ん?こっちの話ー」



 相変わらず掴めない人だ。
 諦めたように溜め息を吐くと、隣から鋭い視線が刺さってきた。

 隣を見ると、会長が説明を求めるような目を向けてきていた。だよねー。



「とりあえず、縄、解いてもらえませんか」

「おっけー」



 そう言って彼が取り出したのは、小ぶりなカッターナイフだった。
 なんで持ってんだそんなもん…!
















「はー…、ありがとうございました」
「いいってことよー」



 無事に外へ出てきた俺は、ここが校舎の裏側、隅っこにある殆ど使われてない倉庫と貸した教室である事を知った。
 そりゃあ人気もねぇわな。


 人気がまったくないそこは、三階の隅っこで、廊下を歩きながら隣で甘い匂いを纏う人を見た。


 今まで固定されていた手首を擦りながら、会長は無言で後ろにいる。
 そのさらに後ろには、男前が気絶したままの男の襟を掴んだまま何の躊躇いもなく引き摺ってる。容赦ない。

 そしてその男に見覚えがあった俺は、疑問とかあったけど、まあ、引き摺ることに何の突っ込みもしなかった。
 壁や扉が凄い音を立てたのは、この隣で気の抜ける笑みを浮かべながら飴を転がす、他校の甘党仲間である一個上の先輩が容赦なく投げつけたかららしい。
 相変わらず容赦ねぇな、と苦笑いが浮かぶ。



「……仁科、」
「え?」



 背後から呼ばれて立ち止まり、振り返ると会長が戸惑いながらこちらを見る。



「俺は、生徒会室に戻る。───あんた、助けてくれてありがとう」
「ん?いーよ、ついでだから」
「……、……じゃあな」
「あ、はい」



 ついで、と言い切った先輩に不機嫌さを露にした会長だが、俺に声を掛けると足早に行ってしまった。
 それを見送って、甘党仲間、八月一日慧(ほずみ けい)先輩に向き直る。
 いつの間にか近くにいた男前にちょっと驚きつつ、チラ見しながら口を開く。



「先輩、あの人は…」
「ああー、幼馴染みの翔ちゃん。会ったことなかったっけ」
「いや、会うのはいつも先輩だけだから…」
「まあ、甘いもの巡りに付き合えるヤツじゃないからねー、甘いもの苦手だしコイツ」



 ケラケラ笑う先輩に、翔ちゃん、と呼ばれた男前は眉を寄せた。
 その手に未だに捕まれている顔見知りは、やっぱり身動きしない。どんだけやられたんだ。



「……あいつ、」



 ぽつり、と溢すと、先輩が笑った。



 


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