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04
 


「一方的な独占欲と嫉妬を正当化して俺にぶつけてくるアンタが知りたがっている蒼司の情報を偽って話した所で、俺に残るのはデメリットばっかりなわけ」



 そもそも俺は、誰がどういう人間かを偽って誰かに伝える事が嫌いだ。
 俺が知る蒼司は、蒼司の全てじゃない。それは誰だってそう。長い付き合いである多貴も伊織も、俺の知らない面を持っている。逆もしかり。



「俺が知る蒼司は一部でしかないけど、アンタはそれを知らない。そんなアンタが俺の話を疑う理由はなに?蒼司の事を知ってるからっていう嫉妬?俺さ、前に言っただろ」



 ぴくりと会長の片眉が動く。
 勝手すぎる会長に文句というか説教というか、そんな言葉をぶつけた時の事を思い出しでもしたのか、会長は眉を寄せたまま目をそらした。

 だがしかし俺は言う。
 間違っているとかおかしいとか言われようが、俺は俺の価値観でしか計れない自分以外の他人に対して抱いたことを。



「向き合いもしねぇでただ一方的なアンタの蒼司への接し方は、蒼司の存在を否定して、剰え侮辱してるのと同じだ」



 今でも変わらないとは思えない。
 少なくとも蒼司と会長のことは俺からすれば茅の外なのだ。
 関係ないとは言えなくても、殆ど関係ないと思える間柄で起こっていることなんて、俺は知らないのだから。

 知らないからこそ、憶測で会長を馬鹿にすることが出来る。



「……てめぇに、俺があいつに抱いてるもんなんか分かるわけがねぇ」
「当たり前だろ。やっぱ馬鹿だ会長」
「あぁ?」



 はふぅ、めんどくさ。
 言うと思った、と呟くと、会長は怒気を孕んだ空気を惜しげもなく晒してきた。
 しかし会長に対する俺の評価は、会長を憧憬や畏怖の眼差しで見つめる人たちと違って、ただの高校の先輩でしかないのだ。
 つけ加えるなら、生徒会長でアホで不器用で俺様で勝手でヘタレな、ただの先輩である。
 自分で思ったわりにちょっとヤバイなこのイメージ。



「何度も言いたくないけどさ、会長。分かるわけないんだよ他人の抱えてるもんなんか。知ってほしけりゃ言葉にして声に出せ。考えて悩んで自分ひとりで抱え込んでて、誰かその心中を透かして見れるとでも思ってんの?チラ見せして威嚇すんなら最初から出してくんな、鬱陶しい」
「……てめぇ、誰に向かって、」
「五十鈴馨。生徒会長。先輩。高校生。それ以外に今、なんかあんの?」
「……ッ」



 こめかみがピクピクして青筋が浮かんでいる会長を見据えると、綺麗な顔が怒りに歪んでいる。
 美形のせいで迫力はあるけど、生憎俺には効果がない。



「五十鈴先輩。あのさ、立場とか据え付けて置かないとダメなの?確かに立場は大事だけど、それ以前に、五十鈴馨っていうその身ひとつで蒼司にぶつかろうとは思わないわけ?」
「……な、」
「だから俺は、疑うんだよ。アンタの言う好きは、ただの支配欲で、愛情とかじゃないのかって」
「ッ、俺は、」



 下唇を噛み締める会長は、そのまま黙り込んでしまった。
 まるで、自分の気持ちすらもちゃんと分かってないみたいな、戸惑い。



「……俺ね、蒼司の伝えてくれる愛情ってやつに、応えられなかった」
「……」



 憤りはない。
 焦りもない。
 躊躇いもなく、不安もなく、ただひとつ、穏やかな波だけが内側にある。



「蒼司は一直線だ。良くも悪くも、一直線で、一途で、ちょっと天然で、自分の意識している相手以外の気持ちには鈍感」
「……」
「だから、一方的に自分が誰かに想われてる事に慣れてない。優しいけど、蒼司には蒼司の壁がある。それを少しでもぶっ壊してくれたのは、アンタなんだよ、会長」
「……は?」



  

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あきゅろす。
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