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またですか。
 


 監禁宣言が放送された後、数名の生徒は生徒会長と共に監禁されているのが仁科諒であることに気付いていた。
 連絡が取れないのも然り、放送内容に心当たりがあったのも然りである。

 ドッキリイベントだと認識している来場者や生徒たちは、誰が会長を見つけるかという話題がそこかしこで囁かれているのを聞いては、探してみようかと考える者や興味がないと文化祭を楽しむ者で別れている。

 そんな中で、Aクラスの催しであるコスプレ喫茶店のメイン接客係扱いである六名は、客足が落ち着いた教室の出入り口である受付の長テーブルの所に集まっていた。

 商人袴姿の北条多貴。
 甘味屋のエプロン付き着物姿の望月伊織。
 装飾品が多い軍服姿の瀬戸和史。
 ゲームキャラクターの衣装を違和感なく着こなす森幸春。
 その幸春の彼女であるハイカラさんな桜井唯。
 これまた違和感のない執事姿の霧島蒼司。


 客として訪れた生徒や来場者の視線をがっつり集めている六名だが、それぞれの表情は真剣である。
 特に、幼馴染みである多貴、伊織や元恋人の蒼司、仁科諒に密かに(?)想いを寄せている瀬戸和史の四名の表情は人を近付けさせないオーラを纏っていた。
 補足しておくと、不機嫌というよりは、話を聞かれないように、意味はそのまま人を近付けさせない為の、である。一名は本当に不機嫌であるが。
 他の五名は決して無意識にではなく、あえての近づくなオーラである。
 この場合、やはり瀬戸の存在はかなりの効果が発揮されている。



 ───そんな六名が集まったのは、先ほどのドッキリイベントと称された監禁宣言という放送内容にある。



「…連絡取れない。電源落ちてるね」



 携帯を片手に眉を寄せる伊織を見て、多貴は溜め息を吐いた。
 何だか最近にも似たようなことがあったような無かったような、という既視感を抱いた多貴である。



「しかも会長と……」



 顎に白い手袋をした手を当てた蒼司が呟く。伊達であっても細いノンフレームの眼鏡を掛けたその姿は見紛うほどに執事である。

 そんな蒼司の言葉に、五名はそれぞれ遠い目をした。
 大半が呆れであったが、不安、妄想、心配、不機嫌、も含まれている。ちなみに心配は幸春で、妄想主である唯の妄想内容に対してである。


 以前あった生徒会長による嫉妬が招いた騒動を思い出した男組は、まさか会長がまた諒に何かするのでは(懲りないヤツだ)と勘繰った。
 生徒会長が蒼司に対して好意を持ち、元恋人である諒との関わりを何とか絶とうと起こした呆れしかない騒動である。結局会長は諒に説教をされてそれは落ち着いたものの、その後の会長との関わりはなかった。
 蒼司も会長から諒とのことについて言及された覚えもない。
 今更暴走したのなら報復を考えなければ、と思案する蒼司である。


 それぞれが似たような考えを巡らせている中(一人は妄想)で、瀬戸だけは違う方向の記憶を引っ張り出していた。
 放送で流れた声に、瀬戸は違和感を抱いていた。
 嫌に聞き覚えのある声だった、と瀬戸は眉間にシワを作る。
 ドッキリイベントであるとふざけた事を言っていたあの声は、確かにどこかで聞き覚えがあって、しかもそれが良いものではないということ。


 まさかとは思う。
 あれから約半年経っていて、今頃そんな大胆な行動に出るのか。しかもあの時は個人的な問題で、それに巻き込んでしまったという事実は確かにある。
 あるのだが、違和感は拭えない。
 あの時の狙いは自分だった。誘き出す餌としてあいつが使われただけだった、はずだ。
 犯人が今予想している人物である確信はない。が、可能性はある。

 …目的がどうあれ、誘拐監禁被害の常習である仁科諒を見つけるのが先か。


 浅く溜め息を吐いた瀬戸は、目敏くこちらを見つめる伊織と目を合わせた。


 


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あきゅろす。
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