ドッキリイベント開始。‐01
仁科諒が何者かに襲撃されたしばらく後───南ヶ丘の文化祭により賑わいで包まれた敷地内で突如、ぶつり、と電源が入り放送開始を知らせるメロディーが鳴り渡る。
迷子のお知らせなども放送していたため、来場者や生徒たちはあまり気に止めない。主催側の生徒たちも何かの企画の開始連絡か、と耳を傾けても忙しさや楽しさで意識は半々だった。
『…あ、あー、入ってる?、うん』
気の抜けた声が流れ、幾人かの生徒や来場者は含み笑いを溢す。
しかし次に聞こえた言葉に、殆どの生徒が目を見開き、耳を疑い、校内は一瞬沈黙に包まれることになった。
『───南ヶ丘高校の生徒会長を監禁した』
さっきよりも低く、だが同一人物だと分かる声。
生徒会長を監禁した。その家柄もあるが、大規模な親衛隊を持ち、眉目秀麗に頭脳明晰だという生徒会長を。それはこの学校の生徒であれば名前を知らない生徒は殆どいない程に有名なその役職名だった。
そんな彼を、誰かが監禁した。
ざわり、と波のように静寂が打ち消され、困惑した声が広がっていく。
生徒会役員が互いに連絡を取り合い生徒会室に集まるよう動く中、再び声が響く。
『……という生徒会企画のドッキリイベントでーす。この文化祭が終わるまでに見つけた生徒には、特別待遇が待ってまーす』
その放送の声は、さっきの監禁発言から打ってかわって明るいもので。
驚愕の声が広がっていた校内は別のざわめきに包まれていく。親衛隊はその言葉に胸を撫で下ろし、特別待遇に胸を踊らせ、自分が見つけてみせる!と意気込んだ。
しかし、とある数名の生徒───主に生徒会役員や風紀委員は、そんな企画がないことを知っているため鋭く意識をそちらに向ける。
『───ああ、そうそう』
そして放送の声は、あからさまに今思い出したような声で、続ける。
『ちなみに生徒会長と一緒に、とある人物も捕まえました。そいつは獰猛な狼を只の番犬にさせた調教師です。そんな恐ーい人と会長が一緒にいるなんて驚きだねえ!さあさあ、会長が調教される前に見つけ出してあげましょう!」
そこで、ぶつり、と切れた放送に、またしても静まる校内。まさに驚愕の事実、と言わんばかりの言い方に、その内容に、生徒会長を崇拝する生徒は悲鳴をあげ、焦り、我先にと広い敷地内を奔走し始めた。
───放送からすぐ後の生徒会室には、副会長、書記、会計が揃っていた。
「会長に連絡は?」
「携帯は仮眠室に置かれていました」
副会長の相模葵が、不機嫌そうに眉を潜めながら問うと、すぐさま書記の岩崎双葉が無表情で答える。
「……スズちゃん大丈夫かな」
不安げな表情を浮かべる会計の松尾直也は、ソファの上で膝を抱えていた。
ちなみに直也のあだ名は五十鈴の「すず」という微妙な所からきている。
連絡を取ることが出来ない今、五十鈴馨がどこに居るのかも分からず、信用性は微妙であるものの調教師というふざけた輩と共に監禁したと言っていた。
生徒会室に来るまでに幾人もの生徒から放送内容について問われたが、あくまでそこはドッキリイベントと称し、調教師というのもただのネタであると伝え放送主の言葉に乗った。
放送後すぐに風紀委員の手を借り生徒にその旨を伝えさせた為、酷い混乱は免れているが、もちろんドッキリイベントなど生徒会では企画をしていない。
それぞれが思考を巡らせていると、生徒会室の扉がノックもなしに開けられ三人の視線が素早くそちらに向いた。
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