04
忙しい中で様々な視線をいただきつつ、やっと休憩をもらって両親と久々に一緒に居るわけですが。
アリスのままってどうなの。
「諒ちゃん、諒ちゃん、お化け屋敷入らない?」
「いいけど」
乙女な母さんに引っ張り回されて、父さんはそんな俺らを暖かい目で見ながら時々写真を撮っている。
確実に黒歴史なのであまり撮らないでもらいたい。
でもまあ、久々に会えて嬉しそうだし楽しそうだからいいかと半ば諦めもある俺は、素直に写真に撮られるんだけど。
お化け屋敷はクオリティが高かった。
母さんを真ん中に、俺と父さんの腕はしっかりホールドされた。苦手なくせに入りたがるんだから。
食べ物屋が多く、かるく摘まめるものを買ったり演劇を見たり、軽音のライブを聴いたりと、アリスの姿であることを除けば充分な休憩時間になった。
時折来場者から、クラスのコスプレクオリティが広まったのか、アリスと一緒に写真を撮りたいと頼まれたりした。
休憩前にはクラスの隅っこでちょっとした撮影会みたいになってたのは仕方ないのかもしれない。
桜井ちゃんの腕は確かだ。
一時間近く両親と歩き回って、もうすぐ14時かと思っていると、すまなそうな顔をした父さんに抱き締められた。
「諒、そろそろ行かなきゃいけない。もっと居たいのに、仕事は無情だね」
「……そっか」
寂しそうな顔で両手を握ってきた母さんに笑みを向けると、可愛い笑顔を返してくれる。
会ってから三時間あるかどうかの、そんな時間を過ごして、楽しかったからこそやっぱり寂しくなる。
「父さん母さん、忙しいのに会いに来てくれてありがと。仕事頑張って」
母さんの手を握り返し、父さんに寄りかかると、二人の手が力を込める。
離れ難いなあ、と温もりに満たされて、それでも時間は過ぎていく。
「諒ちゃあぁぁん…っ」
「母さん、泣くなよ」
「私も泣けてきた」
「おいおい…」
二人して泣かれたら離れられなくなるじゃないか。
素直に泣いている母さんと、泣きそうな父さんを宥めながらも、なんだかどっちが親だか分からなくなって笑ってしまった。
「……すんっ、諒ちゃん、またね」
「うん、ほら顔拭いて」
「うぅぅ…」
「怜、私も名残惜しいが、時間だよ」
「はーい…」
後ろから父さん、前から母さんに抱き締められ、ぎゅうぎゅうと力を入れてからゆっくり離れる。
二人は相変わらず綺麗で可愛い笑顔を浮かべて、手を振りながら正門へと歩いていく。
それに手を振り返して見送り、見えなくなった所で深く息を吐いた。
二人が俺を連れていきたいとか言わないのは、俺が周りと、特に多貴と伊織から離れたくないと思ってるのを気付いているからだろうな。
自分たちの都合で、コロコロと居場所を変えて居づらくするより、自分たちだけで行って時間を作って帰ってくる方が良いのだと、昔泣きながら言ってたのを思い出す。
次は正月かな、と見えなくなっても正門を見続けながら先の予想をして、長いような短いような、なんて少し笑った。
休憩が終わりに近づいて、もうひと頑張りするか、と体を伸ばして教室へと向かう。
その途中で、突然強い衝撃を後頭部に受け、ぶつりと意識が切れた。
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