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03
 


 立ち話もアレだからと席に案内しながら、他のクラスメイトやお客さんにお騒がせした事を謝る。本当に心から申し訳ないです。

 四人席に座らせ、アイスコーヒー2つの注文を受けて運ぶと二人はそれはもうニコニコと恐ろしく思う程に俺の全身を眺めた。
 メイクしてウィッグ付けて女装した息子をそんな笑顔で見ないでほしい。切実に。



「その服は諒が選んだのかな?」
「違います。不可抗力です」



 盆を傍らに父さんの隣に立っていると、ふざけた事を言われたので全力で否定した。
 近くにいた幸丸が誰かを引っ張ってくるのが見えて、あぁ、あの子だよ、と両親の視線を促す。



「はじめまして、仁科くんのご両親。桜井と申します、彼の衣装は私が選びました!」



 幸丸に連れてこられた桜井ちゃんはハイカラさんになっていた。明治ですね。幸丸が選んだのは明治のお方でした。幸丸の好みはそういう感じなのか。
 元気よく挙手したハイカラさん…いや桜井ちゃんを両親が感心したように見つめ───…感心?



「いいセンスだね、ありがとう」
「桜井ちゃん、幸せをありがとう」



 何だろう、発言に突っ込みたいのに、本当に幸せそうに笑う二人を見ると何も言えない。
 いつも仕事に追われて多忙な生活をしている二人だから、たまにはこういうのも良いのかな、と思ってしまった。


 そこでふと珍しく静かな夏樹さんに目を向けると、母さんの方にいる瀬戸を凝視している。なぜか。
 頬杖をついて、真顔で、じっと顔を。
 流石の瀬戸も目を合わせはしてないが眉間にシワが寄ってる。



「どしたの夏樹さん、瀬戸が困ってるけど」
「いやね、」



 しばらく凝視してから、視線を俺に向けた夏樹さんに対して瀬戸は溜め息を吐いていた。結構な圧力だったらしい。



「なーんか、どっか見たことあるような顔だなと」
「え、瀬戸が?」
「瀬戸君を見たわけじゃないんだけど。今の姿見てると、誰かに似てる。誰だっけなーって考えてたんだけど全っ然出てこない」



 その言葉に、思わず瀬戸を見た。
 夏樹さんも再び見ている。
 しかしさっきと違うことは、夏樹さんとは目を合わせないようにしてたくせに、俺とはがっつり目が合っていることだ。
 忘れちゃならんが俺は今女装中である。
 アリスと軍人が見つめあうってなにそれ異様。

 っつーか、やっぱ格好いいよなコイツ。見てて飽きないっつうか、桜井ちゃんセレクトの軍服が似合いすぎて何か、なんだこれ。よくわからん。



「ていうかなに見つめあってんのアンタら」



 愉快そうな夏樹さんの言葉に咄嗟に視線を外した。言われると恥ずかしくなるから止めてください。
 結局夏樹さんが思い出す事はなく、両親と従姉からの視線を頂きながらも接客に戻ることにした。いたたまれなくて。

 接客中も、なぜか瀬戸が両親にしつこく絡まれてるせいで身動き出来ないでいるのを何度か目撃した。
 ちょっと同情。





「───…周りの目なんて気にしないで見つめあう二人はアイコンタクトで愛を伝えあってるんだよねアレはそうでしょサチ。私には見える。二人の視界には互いしかいないっていうあのピンクい空気が!」
「いや気のせいっす」
「アリスと軍人、禁断の恋!そのまま夜は二人でっていうか軍人がアリスを無言で引っ張って行って戸惑うアリスに煽られながらも誰も居ない部屋で愛を囁いてアッーとか!」
「落ち着け」



 なんて会話が隅っこで交わされているなんて知るわけもなく。桜井ちゃんが興奮している空気は分かるんだけど、何を話しているのかは聞き取れない。悪寒がするから聞き取れなくていいんだろうけども。



 


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