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仁科家は円満です。‐01
 


「アイスコーヒー、アイスティー、オレンジ、コーラ、バニラとチョコのアイス、炒飯と仁科ー!」
「いや最後おかしいだろ!?」



 なぜ最後に炒飯の注文と俺の名前が入る!?


 ───文化祭が始まってしばらく、コスプレが付属しているものの喫茶店としてはかなりの繁盛具合で、満席御礼である。

 自分の格好も気にならなくなった…のは嘘だが、諦めたので恥は捨てた。
 接客をするクラスメイトに混じって、軍服着用の瀬戸とまっつんはクラスの警備員も兼任しているらしい。桜井ちゃん曰く。
 まあ二人して目付き悪いしな。

 たまに瀬戸と目が合うと、奴は俺を凝視している。背を向けようが目を合わせないようにしようが視線が突き刺さるんだよ、いたたまれないくらいに。
 そんなに俺の格好が変かコノヤロウ、と最初はすれ違い様に文句を言ったが、何をトチ狂ったかヤツは「似合ってる」とふざけた事をぬかした。
 その時の目がまるで焼き付けるようにじっくりじっとりしたものだったから、俺はそれ以降あいつに近付くのをやめた。

 間近で視線を感じたくないのもあったが、普段とまったく違う雰囲気を纏い、あまり見ない眼鏡姿でしかもノンフレームだとまたちょっと違う感じだったから、なんか変に緊張する。なんで緊張するのかは分からないけど。



 そんな中で忙しなく動き回って、ちょうど注文された品を盆に乗せてさあ行くか、と持ち上げた瞬間に冒頭の発言である。
 俺は注文品じゃねぇ!と物申す気持ちで振り返った瞬間、体と思考が停止した。

 間近で幸丸が「ご指名っす」と言っているのを理解するのに数秒掛かったのは仕方ないと思う。
 ダークグレイのカジュアルスーツを着こなしたその人が、柔らかな笑みを浮かべて一メートルという近距離に立っていた。



「───随分可愛らしい格好をしてるね。諒はいつから女の子になったのかな?」
「いや俺ちゃんと男だから、父さん!」



 俺の目の前でそう宣ったのは、紛れもなく父さんだった。
 正月以来の変わらない若々しさと溢れんばかりの包容力を纏う、年齢不詳を思わせる俺の父である。

 受付にいるはずの幼馴染みの方を見ると、にこやかに手を振ってきた。おい。



「いや、可愛くてついね。まさか文化祭で諒が不思議の国の女の子になるなんて思わなくて。全力で仕事を片付けた甲斐があったかな」
「いやいやいや、力の入れ所おかしくね!?」



 にこやかな父さんの言葉に勘づいたであろう、俺に渡されたコスプレ衣装はアリスである。
 ゆるいウェーブのかかった茶色いウィッグに、青い服とフリル付きの白いエプロン、またもフリルがついた白いニーハイソックスに赤い靴である。靴のサイズを見つけた桜井ちゃんに脱帽である。

 軽くメイクを施された俺は、自分の姿を見た瞬間に「誰だよ」と思わず突っ込んだ。
 それから瀬戸にずっと凝視されて視線に追われて居るんだけど、この際フルシカトだと決めた。



「つうか、指名制ないんだけど」
「久々に会えたんだから、許してくれないかな?」



 そう言われても…とちょっと悩みながら、幸丸が品物が乗った盆を代わりに届けてくれるというのでお言葉に甘えて渡した瞬間である。



「───りょうちゃあぁぁあん!!」
「ふぐぅ…っ!」



 

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