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最後まで暴走。‐01
 


「───あぁッ!家に忘れた!」



 桜井ちゃんの突然の叫びに接客担当とまっつんの全員がそちらを見ると、桜井ちゃんは深い深い溜め息をついてしゃがみ込んでしまった。
 準備室に入ってさあ着替えましょう、となったのだけど、どうやら桜井ちゃんは衣装のデザインを事細かに確認するために家に持って帰り、そのまま忘れたらしい。

 俺と瀬戸と多貴と伊織と幸丸と廣田とまっつんのコスプレ衣装を。なんだそのタイミング。



「本当にごめんなさい、明日玄関先に貼り紙して置いとくんで、早めに来てほしいです!」
「唯、わざと忘れたんじゃないっすか」
「なわけないじゃん!」



 意を決して準備室に入ったっていうのに、七人分の衣装を忘れたとは…脱力。
 ごめんなさい、としょんぼりする桜井ちゃんに仕方ないよという空気が流れる。
 俺ら以外の衣装は準備室に置いていたため、クラスメイトたちはそれに着替えているが。



「サイズとかは問題ないんだよね?」



 しょんぼりする桜井ちゃんの前に伊織がしゃがみ、大丈夫だよと肩を叩く。
 桜井ちゃんが「問題ないです」と親指を立てると、伊織は立ち上がって振り返り微笑んだ。



「僕らの衣装は当日のお楽しみってことにしようよ、サイズに関しては間違いないだろうし」
「……俺のさっきの格闘はなんだったんだ」



 ね、と笑う伊織に頷いた面々の中でひとり、まっつんだけが項垂れた。
 確かにさっきの格闘は無駄だったね。残念。


 結局俺たちは制服のまま、クラスメイトのコスプレを眺めただけで終わった。
 なんの衣装か分かると思って腹くくったら、当日に初対面せねばならなくなった。忘れたなら仕方ない、うん。とりあえず緊張の持ち越しである。
















 そしてついに来てしまった、文化祭当日。
 昨日衣装の試着が出来なかった俺たちは普段よりかなり早めに登校し、家庭科準備室に集まっているのだけど。
 何故か既に他のクラスメイトもいて、衣装に着替えている。早くね?


 そんな中、桜井ちゃんは七つの紙袋を両手に現れた。眼鏡の半分までかかっていた前髪が上げられてるせいで、雰囲気が違う。
 ふっつーに可愛い顔してますよね桜井ちゃん。二重でぱっちりな大きい目と長いまつ毛、ふっくらした頬は女の子らしく、つねに前髪上げるか短くすればいいのに。と思ったけど、そういえば前に目立ちたくないとか言ってたからわざと内気風でやってるのかな。容姿の良さを桜井ちゃんが自覚してるかはさておき。

 桜井ちゃんはドサリと紙袋を足下に置いきながら、はっきりと顔を晒した姿に驚くクラスメイトを見回して首をかしげた。
 自覚なしですね。



「…おはよー皆さま。早くに申し訳ない。これに衣装とか入ってるから、とりあえず着たら出てきて。ウィッグとメイクするから」
「桜井がやんのか」
「先生超不機嫌ー。もちろんやりますよ」
「上手いから安心していいっすよ」



 森が言うなら大丈夫だろう、とまっつんは諦めたように息を吐いた。
 桜井ちゃんは紙袋を渡し回りながら、



「調理担当の人には早く来てもらって、もう着替えとかメイクやってるの。喫茶店だから早めに作らないとでしょ?ほとんど調理室にいるけど、教室でも最終準備と確認してもらってるんだ」


 

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