04
衝撃的な出会いから一週間。
文化祭の準備は着々と進み、コスプレの候補も大体出揃い───まあちょっと、あれ?って思う服もあったけども。乙女系男子とかさ、女子と混ざってきゃいきゃいやってましたけども。
何のコスプレにしようかって嬉々として悩む桜井ちゃんのテンションも少しだけ慣れてきたんだけどね。あれね。
何にするのかは詳しく決まってないが、多貴と瀬戸と幸丸は男物らしいのに何故俺が乙女系男子と混ざらねばならぬのか。伊織もそうらしいけど伊織はいいじゃんべつに。
でも俺は微妙でしょ確実に。なので個人的に女装はちょっとやめていただきたい。
お楽しみにね、と晴れやかな笑顔で心底楽しそうに桜井ちゃんに言われたので、どんなコスプレになるのかは分かりません。胃に穴があきそうです。主に不安で。
そんな週末の夜、久しぶりに従姉の夏樹さんが家におります。
「最近忙しくて死んでた」
家に入って顔を合わせて開口一番に夏樹さんはそう言って、おっさんみたいに唸りながらソファに身を投げ出しました。一応女だろあんた。
そんな従姉に適当に飯を与え、風呂場に押し込んだ。上がってきたらいつもの夏樹さんだったけど。
二人でソファに座り、映画が流れているテレビを眺めながらアイスを食べていると、夏樹さんが思い出したように「あ、」と声を上げた。
「どったん」
「あんた今月末文化祭だよね」
「あぁ、うん。チケット貰ってきた」
「二人で来るって」
「はい?」
何でもないように言った夏樹さんの方を向くと、アイスをつついている。
いやいや、二人でって誰よ。
「昨日イタリアから国際電話があってさぁ、諒の学校の文化祭の事話したら、絶対いくからって、玲(れい)さんと正仁(まさひと)さんが、」
「…、…っはぁあ!?」
な、なななんだって!?
俺に電話よこさないで何故夏樹さんに電話すんのかとかは理由知ってるからいいけど、え、文化祭来んの!?
うっさいなぁ、とか言いながら呑気にアイスを食べてますけどちょっと待って!
「父さんと母さん来んの!?」
「だからそう言ったじゃん。間に合わせるってさ」
「まじかよ…」
アイスをテーブルに避難させてから膝を抱えた。
うー、あー、と唸っていると、夏樹さんが片足をソファに上げてこっちを向く。
「なに、いやなの?」
「……嫌じゃねぇけど…」
嫌じゃねぇよ、当たり前だろ。
滅多に会えない両親に会えるのは嬉しい。嬉しいけど今回ばかりは問題がある。そう、結構な問題がある。
「…うちのクラス、コスプレ喫茶」
「ぶふ…っ」
顔を上げると夏樹さんは口に手を当てているが、ちょっと惜しい。指の間からバニラアイスが垂れてるぞ。
そりゃあそうだ。
まさか文化祭でコスプレするなんて誰が思うよ。
「……っなに、みんなすんの?」
「おー…しかも俺接客係…」
「それは、渋るね」
「でしょ…それをあの二人が見たら、」
「……あー、どんまい」
くっそ、他人事だと思って。他人事だけどさあ…。
忙しくて電話も出来ない、なんてわけではなく、声を聞いたら会いたくなるからと俺の両親はいつも夏樹さんに電話する。
そんな、正月に一回しか会えない多忙な両親がまさか文化祭に来るとか。去年も行きたいとは言ってたけど、仕事の都合で来られなくなったんだっけ。
「そっか、来んのか…」
「去年行けなかったから今年は絶対来るだろうね」
「まじか……」
「あたしも行くけどね」
「……まじか」
だってあんた達のコスプレ見たいもん、とにこやかに笑った夏樹さんが今だけ悪魔に見えた。
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