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02
 


 翌日のLHRで、デザインと裁縫を担当するグループを除いた、調理担当と接客担当の生徒を決めましょうとなったわけだが。



「───やっぱりイケメンは接客の花、メインに決まってるんだから裏方なんて論外誰やるかとかもはや愚問。可愛い系、美人系、不良系、爽やか系、男前系、選り取りみどりじゃないの本当滾るたまらないこのクラス最高!」



 え…と、こわいです。


 目の前でほぼ息継ぎなく捲し立て最後に理解不能な言葉を放ったのは、あまり喋らず内気で大人しいイメージしかない、体育祭で伊織と二人三脚していた女子生徒である。
 その眼鏡越しのキラキラした目と勢いに押されて、無意識に体が仰け反った。



 LHRに突入し、料理と接客を決めると廣田が言った瞬間に立ち上がって挙手した生徒は他のクラスメイトが呆然とするなか1人「推薦します!」と見た目に反した活発な声で言い放ち、クラスメイトの視線も気にせずに俺らの前に立ち、さっきの発言を繰り出したわけである。



「元気だなァ、桜井」
「当たり前じゃないですか先生!このチャンスを逃すなんて腐敗が廃る!」



 いや腐敗が廃るってちょっと意味が分からないです。

 桜井ちゃんはそれはもう楽しそうに、俺らの席に推薦対象と称した生徒を次々と引っ張り込んでいく。
 あまりの積極性にクラスメイトは抵抗なくこっちに集まり、初っぱな引っ張り込まれた蒼司は苦笑いで俺の机の横にしゃがんでいる。



「───こんなもんかな、文句ある人は!?」



 揃え終えた桜井ちゃんがクラスを見渡して聞くが、クラスメイトは誰も文句を言わない。唖然とはしているものの、窓際に集められた候補に異論はないらしい。


 多貴と伊織と瀬戸、幸丸は頷けるし、他の候補に選ばれたクラスメイトもみんな顔面偏差値が高い。選ばれた理由はわかるよ。



「でもなんで俺まで…?」



 そう溢した瞬間、ぐわっと桜井ちゃんが振り返ったのにびっくりして更に仰け反ってしまった。窓に頭ぶっけた。



「まったく無自覚たまらんが仁科君は入るに決まってるじゃないの!その無自覚っぷりに振り回される片想いたまらん滾る!」
「ぶっは!」
「…ぅえ、…えぇ?」



 桜井ちゃんの中で俺が決定だったのは分かったけど、それ以外が全然理解できない。何語なんだ。
 ていうか幸丸が吹き出した事にもびっくりして、なにが何だか分からなくなってきたんですけど。



「大丈夫任せて!」
「う、うん…?」



 よく分からない勢いのまま頷くしかない。が、後ろで不機嫌そうに眉を寄せた不良が黙っているわけもなく。



「俺はやらねぇぞ」



 ギッと容赦なく桜井ちゃんを睨み付けた瀬戸に、やめろよ可哀想だろ、と言おうと口を開いた。
 が。



「ふぅん、へぇ、そう、そうですか、そういうこと言っちゃいますか、ほうほう」
「…んだよ、なんか文句あんのか」



 す、と目を細め、瀬戸にぐいっと顔を近付けた桜井ちゃんは、隣なのによく聞き取れない声で何か言った。
 桜井ちゃんの態度にびっくりしながらも、それにすかさず凶悪な目を向けた瀬戸。

 すると桜井ちゃんは瀬戸から顔を離し、よく通る声で言った。



「あるに決まってんでしょうが。なに、片想いの相手を前に私に喧嘩売る?売っちゃう?逃げるんだ、そーですかーふーん」
「……おま、……やりゃいいんだろ…」



 え。
 …えええええ!?



「瀬戸ちん黙らせた…」
「凄いね」



 多貴と伊織が感心したように呟いたが、耳から耳へ素通り。
 片想いとか気になる発言があったけど、それより驚いたことは、瀬戸が渋々ではあるが桜井ちゃんに負けたことである。


 まじかよ、桜井ちゃん。


 

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あきゅろす。
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