09
『続きまして、借り物競争です。出場する生徒はゲートに集合してください』
落ち着いた鈴木の声に、該当する生徒が立ち上がってゲートに向かっていく。
俺も出場なので、行ってきますと声を掛けてそちらに小走り。
離れ際、小さな声で「頑張れよ」と言われて。
なんか最近、瀬戸の雰囲気が鋭く無くなってきたなあ、なんて思った。
『さあ!南ヶ丘体育祭名物のひとつ、借り物競争!今年はなんのお題が出るのでしょうかもちろん皆様のご期待するあれこれも混ざってますとも、ええ、ええ、そうでしょうそうでしょう!たぎる!たぎりますこれはもう今年の夏コミ出版のネ───ごふっ』
ちょっと最後なに言ってんのか分かんなかったけど、鈴木は委員長によって静かにさせられたようだ。
あれはもうお馴染みなのか?
体育祭を盛り上げる台本かなんかあんのか?
南ヶ丘体育祭名物のひとつ、借り物競争。
なにが名物かって、去年もそうだったけど、その借り物のお題と戸惑う生徒たちが名物になっているようで。
その借り物が『物』じゃなく『者』もあるだとか、確かに物もあるけど、なんつーか、狙ってるっつーか。
よくわかんないけど一部の生徒たちの間で狙われるのは『者』の方。自分が取ったお題に誰々がいればいい、っていう、願望みたいな。
うん、俺からしたら『者』より『物』のがいいんだけどさ。切実に。
『ではでは!第一走者の準備が整ったようですので、借り物競争、開戦です!』
開戦てなんだ。
ピストルの音でスタートした第一走者たちは、我先にとお題の札がある箱に飛び込んでいく。
勝ちたいって気持ちが大きいんだな、うん。やる気満々でなによりだ───。
「私があの人と一緒にゴールするんだから!」
「僕が書記様と…!」
「バヤカロウ!女神は俺が一緒に!」
「眼鏡なんて沢山いるじゃんかー!」
勝負の延長線上の争奪戦は置いといて。
『───おぉっとー!緑が最初に借り物をゲットしたようです!なんとわが校きっての不良教師通称ホスト先生です!そのまま彼を保健室…いやホスト先生の城に連れ込んで致しても俺は大歓迎です!ホスト教師×優等生キタぁあぁぁあぁ痛あぁぁ!!!』
鈴木あいつ喉枯れないのかな…。
鈍い音がスピーカーから流れるも、競争は止まらず。というか誰も突っ込んでなくない?実況席見てすらいねーよ。
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