02
緩む頬を抑えきれずに、綺麗な白い皿を持ち上げる。食べる前にそのケーキを一通り眺めるのが癖になっていて、最初は驚かれたなあ。
味覚もそうだけど、視覚でも楽しみたいし、味を想像するのも楽しい。
一般的に出回っているような、ドーム型のモンブラン。ちょこんと甘栗が乗ってる、どこにでもあるような外見。
薄茶色のマロンクリーム、中にはなにが入ってるんだろうな、と考えながら、全体を見る。全体がマロンクリームに包まれているけれど、たぶん台はスポンジで。
丁寧に作るくらい、中身も色々と凝っているに違いない。
シンプルだからこその味わいがそこにはある。
ゆっくりと皿を置いて、脇にあるフォークを持って手を合わせる。
顔を上げて見える時任さんの温かい目差しはいつものことだ。
「いただきます!」
「ハイどーぞ」
にこりと笑みを返され、ゆっくりフォークをケーキに差し込んでいく。
崩すのが勿体ない。でも食べたい。
「……む、」
ケーキを口に含んで、マロンクリームの甘さ控えめな味が広がっていく。
崩れていくケーキは、細かな栗の感覚と、生クリームとカスタードの溶けるような食感、ほのかな甘みが満たしていく。
あああ、これは。
「…ぅんまあ……やっぱここのケーキが1番うまいぃぃぃ」
「……ふは、大袈裟」
無意識にフォークを持ってない手を握って、目を閉じたら笑われたけど。
それくらいに美味しい。繊細で、甘すぎなくて、ひとつひとつの味を確かめることが出来る。
こぶりなケーキだからこそ、主張し過ぎず楽しめる、美味しさが詰まってるのがよく分かる。スイーツ愛好家として、まったくたまらん。
ここの従業員が作ったケーキは全員のものを食べたことがある。それはかなりレアらしくて、もう優越感すごい。
同じケーキでも、創作物は一人一人味が違っていて、どれも忘れられないものだ。
「ごちそうさまでした!…あー幸せ」
「大袈裟だって」
「マジですから、この幸せは!」
ケーキひとつでここまで幸福感を満たされることは、今まであまりなくて。この喫茶店の不思議な所のひとつだと思ってる。
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